初恋は、終電の先に

 俺、山田尚也は、後輩の秋谷奈月と焼き鳥を食べに行った翌日、いつもどおりの時間に出社した。


 今日は一日、社内で設計書の作成だ。

 前任者が作ったひどい設計書を、どうにか今のフォーマットに移している途中なんだけど、本当に厄介な案件だ。

 ほぼ毎日、秋谷が一緒に帰ってくれるから、パソコンを叩き割らずに仕事を続けられている。あの子はやっぱり、俺にとって何よりの宝物なんだ。


 パソコンを開いて、コンビニで買ってきたコーヒーをすすっていると、隣の席に花沢さんがやってきた。


「おはよ、山田くん」

「おはよう、花沢さん」

「昨日、あの後あの子とどこか行ってたの?」


 笑顔で聞いてくる花沢さんの顔を、思わずまじまじと見つめてしまった。


 ……花沢さんにぶつかられて、よろけた秋谷。咄嗟に抱き止めて、そのままにしていたら、秋谷がしがみついてきて、嬉しくて腕の中にしまいこんでいた。
 苦しいと言いつつ、秋谷が離れようとする気配がなかったから、調子に乗って抱きしめていたら、


『彼女って感じじゃないなって思ったんだ』


 と、花沢さんに言われた。


 ……そんなことは、俺が一番わかっている。

 秋谷奈月は、高校の頃からかわいい女の子だ。いつも楽しそうな笑顔で、さらさらの髪が風に揺れていて、明るくて太陽みたいな女の子。

 日陰にいる俺を照らしてくれる、あの子は俺の光なんだ。

 俺なんかが釣り合うわけがないことくらい、俺が一番知っている。それこそ、十年前からずっと。

 それでも抱きしめて離さなかったのは、俺の宝物を誰にも見せたくなかったからだ。

 我ながら、本当に重くて気持ち悪い。



 そんなことを目の前の同僚に言う必要もないので、目を伏せて適当に取り繕った。


「うん、居酒屋に行ってた」


 花沢さんにそう答えると、彼女は「ふうん」と頷いた。


「美味しかった?」

「美味しかった」

「今度私も連れてってよ」

「いやー、俺あんまり酒強くないから、他のやつと行ったほうが楽しいよ」


 へらっと笑って、視線をパソコンに戻した。


 大して酒に強くもないくせに、それでもあの子となら居酒屋でもどこでも行きたいし、あの子が喜びそうな店を探したい。

 美味しいと感じられるのも、秋谷が「先輩、これも美味しいですよ」と笑ってくれるからだ。

 秋谷と一緒じゃないときの俺の食事を見たら、たぶんあの子はドン引きする。

 次はどこに行こうか。あの子は何なら喜んでくれるだろうか。そんなことを気分よく考えながら、メールを確認していった。

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