初恋は、終電の先に

「あ、ここだ」


 先輩が連れてきてくれたカフェは、ショーケースに色とりどりのジェラートが並ぶ店だった。

 濃いエスプレッソと、こってり甘いジェラートのセットがおすすめらしい。

 アフォガードもおすすめって言われると、選べない。

 入口の看板の前で唸っていると、先輩が横から覗きこんできた。


「秋谷、何で悩んでるの?」

「エスプレッソとジェラートのセットか、アフォガードで悩んでます」

「ジェラートはどれ?」

「このベリーかピスタチオですかね」

「ベリーじゃなくてチョコでもいい?」

「えっ、はい?」


 先輩はぱっと顔を上げて、軽く手を振って店員を呼んだ。


「アフォガードと、エスプレッソとジェラートのセット、ジェラートはチョコとピスタチオの二種類で」

「店内でお召し上がりですか? 公園のベンチでもお召し上がりいただけます」

「天気もいいし、公園で食べようかな。秋谷、それでいい?」

「い、いいです」

「じゃあ公園で」

「かしこまりました。お会計をこちらのカウンターでお願いします」


 先輩は店員に促されるまま、さっさと行ってしまった。ちょっと、待って待って!

 追いついたときには、先輩はもう会計を終えていた。


「半分払います」

「んー、じゃあまた今度デートしよう。そのときにおやつ代出してくれたらいいよ」

「……先輩、手馴れてないですか?」

「女の子とデートなんて初めてだし、誘ったのもジェラート食べるのも初めてだけど。ジェラートとアイスって何が違うんだ?」

「嘘だあ。もー、私も違いはわかんないですけど」


 こんなかっこいい初心者がいるか!

 私は何故か拗ねた気持ちで先輩を見上げた。

 先輩は片眉を上げて私を見て、何か言いかけたけど、その前にジェラートが運ばれてきた。

 先輩がトレーを受け取って、そのまま公園へ戻った。


 池沿いのテーブル付きのベンチに並んで座った。


「どっちがいい?」

「アフォガードがいいです……半分食べたら交換してもいいですか?」

「もちろん」


 先輩は微笑んで私にバニラアイスを差し出した。受け取ると、熱々のエスプレッソを紙コップから静かに注いでくれた。


「……先輩、私に甘くないですか?」

「そんなの、十年前からだろ」

「気づいてませんでした」

「秋谷はそういうところがある」


 山田先輩は笑って、チョコとピスタチオのジェラートの真ん中をスプーンですくった。

 当たり前みたいに差し出されて、先輩を見ると、はにかんだ顔で私を見ていて、ああもう、かわいい。


「いただきます」


 口の中で冷たいジェラートが甘ったるく溶けた。

 私ばかりが恥ずかしい気がして悔しくて、エスプレッソで溶けたバニラアイスをスプーンですくって差し出した。

 先輩は私とスプーンを見比べて、少しだけ戸惑ったように眉を寄せた。


「……秋谷、無理してない?」

「してないです」

「俺がこういうことして、キモくない?」

「キモいと思う相手とデートなんてしないです」


 そう言って、先輩の口にスプーンをねじ込んだ。

 先輩は目を丸くして、それからアイスを口に運んで、少しうつむいた。


「ありがと」

「こちらこそ」


 アフォガードの残りを、ゆっくり口に運んだ。


 苦くて、甘い。甘くて、苦い。


 吹いた風がやけに涼しくて、火照った顔を冷やしてくれた。