初恋は、終電の先に

 先輩とごはんに行けなかった日、なんとかお客様にご納得いただいて、磯山先輩とふらふらになりながら電車に乗り込んだ。二人で今後の予定を相談しながらスマホを開いたら、山田先輩からのお誘いが届いていた。

 磯山先輩に引かれるくらい動揺して、急いで返事をして、その後はバタバタして会えない日が三日続いて……今日に至った。


「どうかなあ、変じゃないかな」


 スマホで『アラサー デート服』って検索して、出てきたコーデに似た組み合わせにしてみたけど、どうだろう?

 きれいめのワンピースにカーディガン、スニーカーだし、まあ無難ではある。たぶん。

 マニキュアも塗り直したし、化粧もいつもよりちゃんとした。

 部屋の掃除も洗濯も済ませたし、そろそろ家を出てもいいかな。……ちょっと早いかも。


 でも部屋にいても落ち着かないだけだから、結局早めに家を出て待ち合わせの駅に向かった。


「あれ、秋谷、早いね」

「せ、先輩こそ……」


 おかしいな、まだ待ち合わせの三十分くらい前なんだけど。

 早すぎるし、駅ナカのカフェで時間をつぶそうとしたら、その入り口で先輩とばったり会った。


「秋谷に会いたくて、早く来ちゃった」

「あの、過剰供給なので、ちょっと自重してもらって……」

「しない」

「そ、そういえば、先輩の私服って初めてですよね」


 キャパオーバーだから話を逸らして、先輩の姿を上から下まで、舐めるようにじっくり見た。

 先輩の私服姿、初めてだ。高校のときは学ランだったし、最近はスーツだし。

 先輩はすっきりした細身のパンツに、白いゆるっとしたシャツ、その上に黒のカーディガンを軽く羽織っていた。


「先輩、先輩」

「ん?」

「写真撮っていいですか? 家宝にするので!」


 私なりにかわいくおねだりしたのに、先輩は呆れた顔で首を横に振った。


「理由が重いからダメ」

「撮らせてくださいよ! 私、先輩の写真一枚も持ってないんですよ!!」

「俺だって秋谷の写真持ってねえから」

「いらなくないですか?」

「そういうとこだよ」


 先輩が駅の方へ歩き出したから、私もその後をついていく。

 改札を抜けてホームに上がると、春の温かい風がふわっと吹いてきた。


「秋谷」

「はあい」


 スカートが広がらないように抑えながら顔を上げたら、山田先輩がスマホを構えていた。


「写真撮っていい?」

「えっ、なんでですか?」

「理由なんてないけど……なんか良かったから」

「さっき私には撮らせてくれなかったじゃないですか」

「だめ?」

「ダメじゃないですけど……」


 私が先輩にダメとか言えるわけないでしょうが!

 先輩は目を細めて、私にスマホを向けた。

 カシャカシャと何回も音が響く。いや、多くない?


「私にも撮らせてくださいよ」

「いる?」

「いる。いります。いるんです」

「しょうがないな」


 スマホを取り出して、先輩に向けた。

 先輩はちょっと困ったように笑って、その瞬間、風がカーディガンをふわりと広げた。その瞬間にボタンを押した。


「撮れた?」

「はい、最高です。たしかに、なんか良かったです」

「ゴールデンウイークだから」