通話を終えて、スマホをポケットにしまった。
さて、どうするか。
あの子に会えないとなると、途端に俺にはやることがなくなった。
***
ーー俺、山田尚也にとって、秋谷奈月は忘れられない特別な女の子だった。
高校生のころも、俺は今と変わらず地味で目立たない男だった。
仲のいい男友達は数人いたが、女子からはキモいと避けられがちで、席替えで隣になると露骨に嫌そうな顔をされる、そういうタイプだった。
背は高かったけど、運動は苦手で、痩せた体に目つきの悪さと眼鏡が重なり、気の利いたことも言えない。
成績はよかったけど、学年で十位台の微妙な立ち位置。
そんなふうに高校三年生になったころ、彼女は現れた。
三年に進級し、入学式から何日か経ったころ、一年生の女の子が三人で固まって図書室に来た。
俺が通っていた高校の図書室はかなり充実していて、大人しそうなその子たちは目を丸くして本棚を見回していた。
春の穏やかな日差しが本棚を照らし、女の子たちは新品の制服で陽だまりに立っていた。俺はその反対に、日の当たらないカウンターで着古した学ラン姿だった。わかりやすく光と影だった。
そんな卑屈なことを考えていると、そのうちの一人、秋谷がふとカウンターで一年生用の図書カードを用意していた俺に気づいた。
目が合った瞬間、もともと丸かった目がさらにまん丸に見開かれたのを覚えている。
「一年生、かな?」
どうせキモい先輩がいるくらいにしか思われないだろうが、本を借りたいなら手続きは俺がやる必要がある。
こっちが先輩だしと声を掛けたら、その子の頬が一瞬で真っ赤に染まり、涙目になった。
泣くほどキモかったのかとショックを受けていると、その子は隣にいた子に何かを耳打ちした。
相手の子は首をかしげて俺を見て、それから笑いながらもう一人にも声をかけた。
一人でますます凹んでいると、他の二人に背中を押されながらその子がカウンターにやってきた。
「あ、あの……先輩、ですよね?」
その子は新品のブレザーの裾をぎゅっと握りながら、涙目で俺を見上げた。
「う、うん。三年生の山田。えっと、本を借りたいなら手続きするけど」
混乱しながら答えたら、その子は小さく頷いた。
「私、一年の秋谷奈月といいます。あの……よろしくお願いします」
「うん……? こちらこそ?」
そう答えると、秋谷はほっとしたように微笑み、単純な俺の心臓が途端に大騒ぎを始めた。
さて、どうするか。
あの子に会えないとなると、途端に俺にはやることがなくなった。
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ーー俺、山田尚也にとって、秋谷奈月は忘れられない特別な女の子だった。
高校生のころも、俺は今と変わらず地味で目立たない男だった。
仲のいい男友達は数人いたが、女子からはキモいと避けられがちで、席替えで隣になると露骨に嫌そうな顔をされる、そういうタイプだった。
背は高かったけど、運動は苦手で、痩せた体に目つきの悪さと眼鏡が重なり、気の利いたことも言えない。
成績はよかったけど、学年で十位台の微妙な立ち位置。
そんなふうに高校三年生になったころ、彼女は現れた。
三年に進級し、入学式から何日か経ったころ、一年生の女の子が三人で固まって図書室に来た。
俺が通っていた高校の図書室はかなり充実していて、大人しそうなその子たちは目を丸くして本棚を見回していた。
春の穏やかな日差しが本棚を照らし、女の子たちは新品の制服で陽だまりに立っていた。俺はその反対に、日の当たらないカウンターで着古した学ラン姿だった。わかりやすく光と影だった。
そんな卑屈なことを考えていると、そのうちの一人、秋谷がふとカウンターで一年生用の図書カードを用意していた俺に気づいた。
目が合った瞬間、もともと丸かった目がさらにまん丸に見開かれたのを覚えている。
「一年生、かな?」
どうせキモい先輩がいるくらいにしか思われないだろうが、本を借りたいなら手続きは俺がやる必要がある。
こっちが先輩だしと声を掛けたら、その子の頬が一瞬で真っ赤に染まり、涙目になった。
泣くほどキモかったのかとショックを受けていると、その子は隣にいた子に何かを耳打ちした。
相手の子は首をかしげて俺を見て、それから笑いながらもう一人にも声をかけた。
一人でますます凹んでいると、他の二人に背中を押されながらその子がカウンターにやってきた。
「あ、あの……先輩、ですよね?」
その子は新品のブレザーの裾をぎゅっと握りながら、涙目で俺を見上げた。
「う、うん。三年生の山田。えっと、本を借りたいなら手続きするけど」
混乱しながら答えたら、その子は小さく頷いた。
「私、一年の秋谷奈月といいます。あの……よろしくお願いします」
「うん……? こちらこそ?」
そう答えると、秋谷はほっとしたように微笑み、単純な俺の心臓が途端に大騒ぎを始めた。



