初恋は、終電の先に

 桜はすっかり散っていて、かわりに生垣のツツジが明るい色で咲いていた。

 改札を抜けて、エスカレーターでホームに上がったところで、先輩が振り返った。


「俺すっかり秋谷に甘えて飯に誘ってるけど、別に無理だったら断ってくれていいからな?」

「断りません」

「なんで?」

「私が先輩とごはん食べたいからです」


 そう言うと先輩は何度か瞬きをした。

 終電間際のホームには誰もいなくて、遠くで車が走る音が響く。ほかには、私と先輩の息遣いしか聞こえなかった。

 夜空を見上げれば星も見えるはずだけど、それよりずっと近くに、目を離したくない人がいる。


「秋谷」

「はい」

「……明日は客先から直帰だけど、明後日はそんなに遅くならないから、飯行こう」

「行きます。じゃあ、明日のうちに仕事終わらせておきます」

「無理はしなくていいよ。無理すると続かないからさ」

「はい。ありがとうございます、先輩」


 山田先輩は私を見て、ふっと微笑んでから視線を遠くに向けた。

 同じものが見たくて遠くを見たけど、私には先輩が何を見ているのか、よくわからなかった。

***