初恋は、終電の先に

 注文していた料理がテーブルに並び始めたころ、山田先輩がビールのジョッキをテーブルの端に静かに置いた。


「秋谷は大学ってどこ行ったの?」

「実家の近くですよ。私立の経済学部です。先輩は国立の工学系ですよね。私も行きたかったんですけど、ちょっと英語の成績が足りなくて」


 つい目を逸らしたら、山田先輩は「そうだったね」と軽く頷いて、焼き鳥をかじった。

 先輩、口大きいな。先輩は背が高くて、細身だから気づかなかったけど、節くれだった指とか、筋張った手の甲とかが意外と大きい。腕も私よりずっと太くて、がっしりしている。首も太くて、喉仏がくっきり出ていて、見ているだけでお酒が進んじゃう。

 ……写真、撮らせてくれないかな。喉仏だけでいいから。

 私がそんなことを考えているうちに、先輩は湯気の立つお茶を口にしながら苦笑した。


「秋谷、英語苦手だったもんな。毎日宿題手伝ってた気がする」

「その節はご迷惑をおかけしました……」


 恥ずかしい反面、覚えていてくれて嬉しいけど、それだけ手伝わせてたんだよね。申し訳ない。でも、あのとき付き合ってくれた面倒見の良さが好き。

 今も、食べながらさりげなく私の方に皿を向けてくれる優しさも、全部好き。



 そうしてなんだかんだ三時間くらい飲み食いして、気づけばいつもの終電の時間になっていた。

 先輩は早い段階でノンアルコールに切り替えてたから、お店を出た後もふらつくことなく真っすぐ歩いている。私はちまちま飲んでたけど、弱くないから大丈夫。

 二人でまた駅に戻って、最終電車に乗り込んだ。

 並んで座ると、山田先輩がふにゃっとした笑顔で私の顔を覗き込んだ。


「おいしいお店を教えてくれてありがとう」

「どういたしまして。お口に合って何よりです」

「……また、誘ってもいい? 次は俺が店探すから」

「よろこんで!」

「居酒屋かよ」


 先輩はくすくす笑って、カバンを抱え直した。

 その顔はかわいくてかっこよくて、やっぱり色っぽくて……国が傾きそうな笑顔だ。