初恋は、終電の先に

 月曜と火曜は先輩に会えて浮かれてたのに、水曜は会えなかった。

 定時ごろ、山田先輩から


『今日は客先から直帰だから、いつもの電車には乗れない』


 と連絡が来たのだ。

 あからさまに顔に出てたみたいで、隣の席の営業の磯山(いそやま)先輩に


「最近遅い日が続いてるし、帰れるなら早めに帰りな?」


 なんて心配された。

 まあ、週の頭から終電続きだったし、週半ばの今日はそろそろ早く帰ってもいいよね。

 昨日、先輩と会うために仕事を多めに片付けてあるし、今日は余裕がある。


「ではお言葉に甘えて、早めに上がらせてもらいます」

「はいよー、お疲れ」


 振ってるのか追い払ってるのか分からない磯山先輩の手に軽く頭を下げて、珍しく定時すぐに会社を出た。


 よし、それならマニキュアを塗り直そう。せっかくだし、違う色にしようかな。いつもより混んでる電車の中で、スマホを開いて流行りのカラーをチェックしたり、ネイルの情報を眺めたりした。

 電車の中だけじゃなくて、駅も駅前もいつもよりずっと混んでいた。ぶつからないように歩くだけで精一杯で、空や花壇を見る余裕もない。

 駅ビルのドラッグストアで少し悩んで、マットなオレンジを選んだ。……まだマニキュア初心者で、あんまり冒険はできない。

 ついでに新しいヘアオイルも買って、軽く夕飯を済ませてから帰宅した。

 お風呂を済ませて、マニキュアを塗り直す。

 髪にも丁寧にオイルをなじませて、早めにベッドに入ると、なんだかちゃんとした人になれたみたいで嬉しい。

 明日こそ、山田先輩に会えますように。