並んで歩くなら、あなたと

 無事、期末試験が終わった。

 結果はまだ戻ってきていないけど、試験後最初の部活で新しい部長と副部長の発表があった。

 予想通り、二年生の副部長が部長に昇格して、一年生と二年生からそれぞれ新しい副部長が選ばれた。


花菜(かな)ちゃんは副部長にならなかったんだね」


 裏門で水を撒きながら世菜(せな)先輩が言った。


「うん。一応聞かれたけど断った。私はそういうのより、こうやって手を動かす方が好きだし」

「俺も」


 とはいえ、今までとまったく同じようにはいかない。

 これから夏休みに向けて花壇の世話はやることが山ほどあるし、三年生がいなくなる分、それぞれの負担も増える。

 私と世菜先輩も、あちこちの応援に行かないといけない。


「その辺りの担当や分担は夏休み前に決めちゃおう」

「はい、わかりました」


 まあ、藤也(とうや)はそれを見越して、桔花(きっか)蓮乃(はすの)に決まった担当をつけなかったみたいなんだけど。相変わらず抜け目がないんだ、私の従兄は。



 その後、ホースを片付けに倉庫に戻ったら、藤也に捕まった。

 そして、一年生の副部長は桔花だけど、蓮乃は遊撃だと言う。


「桔花の方が事務作業が得意だし、蓮乃の方が目端が利くからな」

「なるほど」

「でもって、三人の中で実務が一番得意なのは花菜だから、蓮乃が困ってる連中を見つけたら、花菜が助けてあげてくれ」

「それ、けっこう大事な役割じゃない?」

「そうだよ。だからお前に頼むんだ。瑞希(みずき)さんの娘で、世菜の弟子であるお前にさ」


 私が何も言えないでいたら、一緒に聞いていた世菜先輩がやけに嬉しそうに私をのぞき込んだ。


「弟子だって。俺、むしろ由紀さんに教わってばかりだけど」

「んなことねえよ」


 藤也は世菜先輩をまっすぐ見た。


「言っただろ? 裏門は世菜に任せてる。俺の目の届きにくいところだけど、世菜なら任せられると思ったし、花壇も街路樹も、おまけにそこの跳ねっ返りの面倒まで見てくれてる。頼りにしてるよ」

「藤也は人たらしだなあ」


 つい笑ったら、藤也も笑って私の頭をぐしゃぐしゃにした。

 自分でも恥ずかしかったらしい。

 世菜先輩は嬉しそうな、困ったような顔で黙っていた。

 ボサボサになった髪を、プルメリアのゴムで結び直した。


「じゃあ、行きましょうか先輩」

「う、うん」


 ゴミ袋と脚立、剪定用の鋏を持って裏門に戻った。

 今日は裏門を出たところの桜が生い茂って道路に飛び出しているから、大まかに私と世菜先輩で切り落とす予定だ。

 ちゃんとした剪定は秋になったら藤乃(ふじの)くんか須藤(すどう)のおじいちゃんがやりに来るらしいけど、それまで道路を塞ぐわけにもいかない。


「脚立に登るのは俺がやるから、花菜ちゃんは下の方と草むしりよろしく」

「了解です。足元気をつけてくださいね」

「うん、気をつける。その前に、一ついい?」


 先輩は脚立を片手に、困った顔で私を見つめた。


「なんですか?」

「……俺も、花菜ちゃんの頭を撫でていい?」

「いいですけど」


 なんで?

 でも、そう聞く前に、先輩がやけに安心したような顔になったから、聞けなかった。


「よかった……えっと、失礼します」


 世菜先輩はそっと私の頭に手を伸ばした。

 藤也とは違って、ゆっくりと丁寧に撫でている。

 ――今度こそ、キスされるのかな。

 ふと思ったけど、先輩の手はすぐに離れた。


「ありがと。じゃあ、さっさと終わらせようか」

「……はい」


 脚立を設置して、先輩の体勢が安定するまで見守った。

 それでも心配だから、私は先輩の足元で作業に取りかかった。

 落とした枝も拾わないといけないし。


「そろそろ夏休みの予定も立てないと」


 脚立の上から、先輩の声がした。


「さっき藤也が予定表印刷してました」

「じゃあ、戻ったら記入しなきゃな。花菜ちゃん、予定ある?」

「ずっと家の手伝いだから、部活には毎日来ます」

「俺も用事ないし毎日来ると思う」


***