「えー、ご存じの通り、当校は進学校です。実は。大丈夫? みんな知ってた?」
七月の頭、放課後に中庭に行ったら、藤也の演説が始まった。え、何?
「部長の話が長引きそうなんで、サクッとまとめると、三年生はそろそろ引退します」
「こら、待て、俺が話してる途中だろうが!」
三年生の副部長が割って入って、藤也は騒ぎ出した。
そうか。三年生はもういなくなっちゃうのか。早くない?
「三年は受験があるし、園芸部は別に大会とかねえから、だいたい一学期の期末試験前に引退するんだ。つっても、文化祭くらいまではみんな勝手に来てるんだけどね。かくいう俺も推薦だから、別に受験勉強とかねえし」
「それはそれとして、次の部長と新しい体制は決めないといけないから、まあケジメっつうか区切りってことで、いったん三年生は期末試験前で引退ってことにしてる。次のことは須藤と俺と二年の副部長と教頭で一応考えてるんで、二年生中心に打診するからよろしくね」
副部長がそう言って、その場は解散になった。
といっても、私と世菜先輩はそのまま二人で裏門担当になるんだろうけど。
たぶん、二年生の副部長が部長になって、二年生と一年生から新しい副部長を決めていく感じになるのかな。
「世菜先輩は、部長とかそういうのにはならなかったんですね」
「うん。柄じゃない。俺はのんびり花をいじってるのが好き」
「そうですよねえ。私も役職がつくのは面倒だなあ」
「あと単純に、裏門担当が去年の三年生が引退したときに俺だけになっちゃったから、俺が役職を引き受けると裏門が回らなくなる」
「それ、来年先輩が引退したら、そうなるんじゃ?」
「そうならないように次の一年生を入れたいね」
そんなことを言いながら、二人で裏門に向かった。
日陰の多い裏門だけど、暑いものは暑いし、雑草もすごい勢いで伸びている。
虫も増えるから、水やりの後は二人でしゃがんで草むしりをする。
家でもずっとやっているから、我ながら手際が良くなってきた気がする。
そして、素早く作業を終わらせたら、試験勉強をしないといけなかった。
「桔花、蓮乃、花菜は頑張って学年十位以内に入ってくれ。それより下だと親父に嫌みを言われます。俺が」
なんて藤也が言ったからだ。
「無理だよー」
「そう?」「十位以内でいいんでしょ?」
「五位だと分かんないけど」「三位くらいまではいけるんじゃない?」
双子は余裕そうに勉強しているし、他の一年生や先輩たちも何てことなさそうに勉強していた。
……園芸部にはこういうところがある。
全体的に落ち着いて物静かな先輩が多いから、一年生もそういう雰囲気の子が集まっていて、園芸についても勉強についても、困ったことや分からないことがあると先輩たちはさらっと教えてくれる。
昔からそういう文化があるのだと、藤也から聞いていた。
「世菜先輩は、成績いいんですか?」
中庭にあるベンチとテーブルで勉強しながら、隣で宿題をやっている世菜先輩に声をかけた。
他のテーブルでも、園芸部員が同じようにみんなで勉強している。
「園芸部内だと下の方。学年で三十位くらいかな」
「園芸部の二年生十人以上いるんだけど!?」
それ、学年上位の半分くらいが園芸部員ってこと?
怖いんだけど?
「翠と黄乃さんは、去年は十位から二十位くらいを維持してたよ。俺は入学当初は学年で真ん中だったけど、先輩たちに教わってここまで上げたって感じ」
「はわ……」
「由紀さんは?」
「入学したときは四十位くらい。そのあとの学力テストは藤也に教わって三十位くらい」
「なら大丈夫。今回ちゃんと要点を絞って勉強すれば二十位前後はいけると思うよ」
それ、どんな自信なのさ。
いつもはふにゃっとした世菜先輩が、黙々と勉強したり教えてくれるのは、それはそれで悪くないけど。
藤也は二年生の女の子たちに勉強を教えていて、桔花と蓮乃は二人で地理の教科書を読んでいた。
「メルボルン」「オーストラリア南東」
「ウィーン」「オーストリア東部」
「モスクワ」「ロシア」
「サルミアッキ」「フィンランド」
「お菓子混ざったけど?」
つい突っ込んだら双子はあはあは笑った。
相変わらず自由だ。
「かなちゃ……由紀さん、そこの単語、逆」
「えっ」
「動詞が先だよ」
「……世菜先輩って、先輩なんですね」
「実はね」
先輩はニコッと笑って、また手を動かし始めた。宿題は化学らしくて、ノートには化学式がずらりと書かれている。
ぜーんぜんわかんない。
先輩はそれをやりながら、ちらっと見ただけで私の英語の間違いにも気づいたのか……すごいな。
それでも三十位。
園芸部の中では下の方。
そんな中で藤也はずっと学年一位を維持してるわけで。
なにそれ。もしかして、結構頑張んないとヤバい?
必死に手を動かす。
眠くなったら、双子と一緒に教科書を音読したり、問題を出し合ったり。
分からないところは世菜先輩や藤也に聞いて、分かるまで考える。
なんか、部活っていうより自分たちでやってる塾みたいだった。
七月の頭、放課後に中庭に行ったら、藤也の演説が始まった。え、何?
「部長の話が長引きそうなんで、サクッとまとめると、三年生はそろそろ引退します」
「こら、待て、俺が話してる途中だろうが!」
三年生の副部長が割って入って、藤也は騒ぎ出した。
そうか。三年生はもういなくなっちゃうのか。早くない?
「三年は受験があるし、園芸部は別に大会とかねえから、だいたい一学期の期末試験前に引退するんだ。つっても、文化祭くらいまではみんな勝手に来てるんだけどね。かくいう俺も推薦だから、別に受験勉強とかねえし」
「それはそれとして、次の部長と新しい体制は決めないといけないから、まあケジメっつうか区切りってことで、いったん三年生は期末試験前で引退ってことにしてる。次のことは須藤と俺と二年の副部長と教頭で一応考えてるんで、二年生中心に打診するからよろしくね」
副部長がそう言って、その場は解散になった。
といっても、私と世菜先輩はそのまま二人で裏門担当になるんだろうけど。
たぶん、二年生の副部長が部長になって、二年生と一年生から新しい副部長を決めていく感じになるのかな。
「世菜先輩は、部長とかそういうのにはならなかったんですね」
「うん。柄じゃない。俺はのんびり花をいじってるのが好き」
「そうですよねえ。私も役職がつくのは面倒だなあ」
「あと単純に、裏門担当が去年の三年生が引退したときに俺だけになっちゃったから、俺が役職を引き受けると裏門が回らなくなる」
「それ、来年先輩が引退したら、そうなるんじゃ?」
「そうならないように次の一年生を入れたいね」
そんなことを言いながら、二人で裏門に向かった。
日陰の多い裏門だけど、暑いものは暑いし、雑草もすごい勢いで伸びている。
虫も増えるから、水やりの後は二人でしゃがんで草むしりをする。
家でもずっとやっているから、我ながら手際が良くなってきた気がする。
そして、素早く作業を終わらせたら、試験勉強をしないといけなかった。
「桔花、蓮乃、花菜は頑張って学年十位以内に入ってくれ。それより下だと親父に嫌みを言われます。俺が」
なんて藤也が言ったからだ。
「無理だよー」
「そう?」「十位以内でいいんでしょ?」
「五位だと分かんないけど」「三位くらいまではいけるんじゃない?」
双子は余裕そうに勉強しているし、他の一年生や先輩たちも何てことなさそうに勉強していた。
……園芸部にはこういうところがある。
全体的に落ち着いて物静かな先輩が多いから、一年生もそういう雰囲気の子が集まっていて、園芸についても勉強についても、困ったことや分からないことがあると先輩たちはさらっと教えてくれる。
昔からそういう文化があるのだと、藤也から聞いていた。
「世菜先輩は、成績いいんですか?」
中庭にあるベンチとテーブルで勉強しながら、隣で宿題をやっている世菜先輩に声をかけた。
他のテーブルでも、園芸部員が同じようにみんなで勉強している。
「園芸部内だと下の方。学年で三十位くらいかな」
「園芸部の二年生十人以上いるんだけど!?」
それ、学年上位の半分くらいが園芸部員ってこと?
怖いんだけど?
「翠と黄乃さんは、去年は十位から二十位くらいを維持してたよ。俺は入学当初は学年で真ん中だったけど、先輩たちに教わってここまで上げたって感じ」
「はわ……」
「由紀さんは?」
「入学したときは四十位くらい。そのあとの学力テストは藤也に教わって三十位くらい」
「なら大丈夫。今回ちゃんと要点を絞って勉強すれば二十位前後はいけると思うよ」
それ、どんな自信なのさ。
いつもはふにゃっとした世菜先輩が、黙々と勉強したり教えてくれるのは、それはそれで悪くないけど。
藤也は二年生の女の子たちに勉強を教えていて、桔花と蓮乃は二人で地理の教科書を読んでいた。
「メルボルン」「オーストラリア南東」
「ウィーン」「オーストリア東部」
「モスクワ」「ロシア」
「サルミアッキ」「フィンランド」
「お菓子混ざったけど?」
つい突っ込んだら双子はあはあは笑った。
相変わらず自由だ。
「かなちゃ……由紀さん、そこの単語、逆」
「えっ」
「動詞が先だよ」
「……世菜先輩って、先輩なんですね」
「実はね」
先輩はニコッと笑って、また手を動かし始めた。宿題は化学らしくて、ノートには化学式がずらりと書かれている。
ぜーんぜんわかんない。
先輩はそれをやりながら、ちらっと見ただけで私の英語の間違いにも気づいたのか……すごいな。
それでも三十位。
園芸部の中では下の方。
そんな中で藤也はずっと学年一位を維持してるわけで。
なにそれ。もしかして、結構頑張んないとヤバい?
必死に手を動かす。
眠くなったら、双子と一緒に教科書を音読したり、問題を出し合ったり。
分からないところは世菜先輩や藤也に聞いて、分かるまで考える。
なんか、部活っていうより自分たちでやってる塾みたいだった。



