並んで歩くなら、あなたと

 中庭に戻って、藤也と一緒に水やりをした。

 家でもやってるし、人数も多いからすぐに終わった。

 その後、一年生は先に帰されたけど、私と桔花と蓮乃は入部済みだし、三人とも家の手伝いで花の世話に慣れてるから、藤也を手伝うことにした。

 二、三年生の先輩たちが中庭に戻ってきて、今度は肥料を混ぜたり、弱ってる樹を保護したり。私たちも先輩たちと一緒にやらせてもらった。


「由紀さん、手際いいねえ」

「実家が花農家なんです。だから任せてください」

「頼もしいなあ」


 できて当たり前のことだけど、褒められたらやっぱり嬉しい。

 つい、あれもこれも手伝っちゃって、気づいたら暗くなってきていた。

 中庭の倉庫に戻ったら、藤也と桔花と蓮乃の三兄妹が片付けをしていた。


「あれ、ホースが一個ねえな」

「そなの?」


 藤也の横から倉庫を覗くと、確かに一個分、場所が空いていた。


「んー、たぶん世菜(せな)だな」

「世菜?」

「あのレッサーパンダみたいな人?」「アライグマでしょ」


 桔花と蓮乃が言った。


「……あー、あの人? どっちかっていったらタヌキっぽくない? ……どこで見たっけ」


 たしかに、そんな感じの先輩をどこかで見た気がする。

 どこだっけ。あんまり明るい場所じゃなかった気がする。


「世菜なら裏門だと思うけど、お前らのそのイメージなんなんだよ。あいつそんな凶暴じゃねえから」

「裏門かあ。じゃあ、私見てくるよ」

「場所分かる? 暗くなってきたし、俺が行くよ」


 藤也が心配そうに言った。


「大丈夫。場所は覚えてるし、部長はここにいたほうがいいでしょ」


 私は藤也に笑ってから走り出した。

 とはいえ、四月の夕方の慣れない校舎裏は、普通に暗くて怖かった。

 いや、学校だし、裏門はすぐそこだし。大丈夫!

 街灯がまだ灯らない、ぎりぎりの暗さの裏門横の花壇で、先輩が一人、しゃがみ込んで作業していた。隣には散らかったままのホースとスコップが放り出されている。

 丸められた骨張った背中と、ふわふわの、ちょっと明るい茶色の髪。


「世菜先輩?」


 声をかけると、先輩はゆっくり振り返った。

 やっぱりタヌキっぽいし、桔花と蓮乃の言う、アライグマとレッサーパンダというのもわからなくはない。

 胸元に二年生の色の校章がついていた。

 垂れた目が不思議そうに細められてから、ふっと微笑む。


「ん? あー……えっと、さっき部長と一緒にいた」

「はい、部長の従妹の、由紀花菜です」

「ごめん、さっき後ろの方にいたから聞こえなかったんだ。由紀さん。……由紀花菜さん。うん、もう忘れない。あの、何か用事?」

「もうそろそろ最終下校時刻だから、探しに来ました」

「えっ」


 世菜先輩が驚いた顔で辺りを見回した。


「わ、ほんとだ、すっごい暗い……。ごめんね、戻るよ。部長待たせてるよね……あ、痛っ」


 勢いよく立ち上がったと思ったら、世菜先輩は足元のホースに引っかかって、尻餅をついた。


「まだ片付け中でしたから、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」


 手を差し出すと、先輩は恥ずかしそうに笑って手を重ねた。

 引っ張って起こして、ホースを巻いた。

 ……なんて言うか、鈍くさい人だ。

 世菜先輩は、スコップと巻き終えたホースを持って微笑んだ。


「ありがとう、由紀さん」

「どういたしまして。戻りましょう」

「うん。いやー、チューリップの茎がいくつか弱っててさ。確認してたら遅くなっちゃった」

「そうなんですか? じゃあ、明日は私も一緒に見させてください」

「もちろん。心強いよ」


 藤也のところに戻って、また片付けを手伝ってから、帰った。