校庭の花壇の苗を全部植えて、ゴミを捨てて中庭に戻った。
倉庫に片付けを済ませて、藤也に終わったことを伝えてから手を洗いにその場を離れる。
世菜先輩もついてきたので、二人で手を洗って拭いていたら、乱暴な足音がした。
振り返ると、園芸部の一年生が私の真後ろに立っていた。……さっき、ナンパしてきた男だ。
「誰がお前みたいなブス、ナンパするかよ!」
目が合った途端、怒鳴られた。
由紀家の基本ルールの一つ「舐められっぱなしで終わらすな」がパッと思い浮かんだ。
「は? 目え腐ってんじゃないの」
「なんだ、お前っ」
「謝って」
思いつく限り罵倒してやろうと思ったのに、それを遮るように世菜先輩が私とそいつの間に立ち塞がった。
「由紀さんに謝って。思い通りにいかないからって他人を貶めるなんて、最低だ」
「な、あんたには関係ねえだろ」
「あるよ」
「ねえよ、ナヨナヨしてだっせえな」
相手が気色ばんだ。
まさか先輩が言い返すと思っていなかったから、どっちに何を言えばいいのか分からない。
「ちょ、世菜せんぱ……」
「この子、俺の大事な後輩だからさ。バカにされたり悲しんでるのを放っておきたくないんだ」
世菜先輩の手が強く握られていて、震えていた。
なんだ、この人。
そんなに震えてるくせに、私を背中に庇って言い返して、わけわかんないな。
「ウゼえんだよ、ちょっと顔がいいからって偉そうに……!」
「はい、そこまで」
聞き慣れた声がして、広い背中が相手の視線を遮った。
「はい、ツーアウト。園芸部はアウト二つで警告だから、こっちにおいで」
割って入った藤也が薄く笑って、相手を校舎の方へと促した。
「は? ちょ、俺は何も……!」
「なんも? 俺の従妹、なんもって顔してねえけど? おい花菜。なにされた?」
「え、えっと、『誰がお前みたいなブス、ナンパするか』って怒鳴られた」
「ふうん。じゃあそれ、教頭先生に話してこよう。教頭が『なんでもなかった』って言ったら、アウトカウント減らしてあげるから。あ、いいよ、逃げても。俺とこいつらで行くから。行かなかったことを後悔しないといいね」
藤也が相手を詰めているのでそっちは任せて、私は世菜先輩の背中から出た。
「先輩」
「……ん」
先輩の手は、まだ強く握られて震えている。
「世菜先輩、なんで私のことかばったのさ。あれくらいよくあるし、慣れてるから放っておいていいのに」
「俺が嫌だったから」
先輩はふにゃっと笑った。
でも、いつもみたいなかわいい顔じゃなくて、すごく疲れたみたいな笑顔で、私はあんまり好きじゃないな。
「嫌なの?」
「嫌だよ。由紀さんが酷いことを言われるのも、それでしょんぼりしてるのも、イライラしてるのも嫌だ。由紀さんには……花菜ちゃんには、笑っててほしいな」
「何、さらっと口説いてるんですか」
「えっ、そんなつもりじゃ……っ」
「ほら、行きましょう、先輩。先輩のかわいい後輩がこれ以上ひどいことを言われないように、教頭先生にあいつのこと、あることないこと吹き込んでやりましょう」
「ないことは止めな……?」
世菜先輩はやっと、いつもみたいなふにゃっとした笑顔になる。
手の指は解かれていたけど、中指の爪が割れていた。
「先輩、教頭先生のとこの前に保健室行こう。爪が割れてる」
割れた爪に触れないように、先輩の親指付け根を握って歩き出した。
倉庫に片付けを済ませて、藤也に終わったことを伝えてから手を洗いにその場を離れる。
世菜先輩もついてきたので、二人で手を洗って拭いていたら、乱暴な足音がした。
振り返ると、園芸部の一年生が私の真後ろに立っていた。……さっき、ナンパしてきた男だ。
「誰がお前みたいなブス、ナンパするかよ!」
目が合った途端、怒鳴られた。
由紀家の基本ルールの一つ「舐められっぱなしで終わらすな」がパッと思い浮かんだ。
「は? 目え腐ってんじゃないの」
「なんだ、お前っ」
「謝って」
思いつく限り罵倒してやろうと思ったのに、それを遮るように世菜先輩が私とそいつの間に立ち塞がった。
「由紀さんに謝って。思い通りにいかないからって他人を貶めるなんて、最低だ」
「な、あんたには関係ねえだろ」
「あるよ」
「ねえよ、ナヨナヨしてだっせえな」
相手が気色ばんだ。
まさか先輩が言い返すと思っていなかったから、どっちに何を言えばいいのか分からない。
「ちょ、世菜せんぱ……」
「この子、俺の大事な後輩だからさ。バカにされたり悲しんでるのを放っておきたくないんだ」
世菜先輩の手が強く握られていて、震えていた。
なんだ、この人。
そんなに震えてるくせに、私を背中に庇って言い返して、わけわかんないな。
「ウゼえんだよ、ちょっと顔がいいからって偉そうに……!」
「はい、そこまで」
聞き慣れた声がして、広い背中が相手の視線を遮った。
「はい、ツーアウト。園芸部はアウト二つで警告だから、こっちにおいで」
割って入った藤也が薄く笑って、相手を校舎の方へと促した。
「は? ちょ、俺は何も……!」
「なんも? 俺の従妹、なんもって顔してねえけど? おい花菜。なにされた?」
「え、えっと、『誰がお前みたいなブス、ナンパするか』って怒鳴られた」
「ふうん。じゃあそれ、教頭先生に話してこよう。教頭が『なんでもなかった』って言ったら、アウトカウント減らしてあげるから。あ、いいよ、逃げても。俺とこいつらで行くから。行かなかったことを後悔しないといいね」
藤也が相手を詰めているのでそっちは任せて、私は世菜先輩の背中から出た。
「先輩」
「……ん」
先輩の手は、まだ強く握られて震えている。
「世菜先輩、なんで私のことかばったのさ。あれくらいよくあるし、慣れてるから放っておいていいのに」
「俺が嫌だったから」
先輩はふにゃっと笑った。
でも、いつもみたいなかわいい顔じゃなくて、すごく疲れたみたいな笑顔で、私はあんまり好きじゃないな。
「嫌なの?」
「嫌だよ。由紀さんが酷いことを言われるのも、それでしょんぼりしてるのも、イライラしてるのも嫌だ。由紀さんには……花菜ちゃんには、笑っててほしいな」
「何、さらっと口説いてるんですか」
「えっ、そんなつもりじゃ……っ」
「ほら、行きましょう、先輩。先輩のかわいい後輩がこれ以上ひどいことを言われないように、教頭先生にあいつのこと、あることないこと吹き込んでやりましょう」
「ないことは止めな……?」
世菜先輩はやっと、いつもみたいなふにゃっとした笑顔になる。
手の指は解かれていたけど、中指の爪が割れていた。
「先輩、教頭先生のとこの前に保健室行こう。爪が割れてる」
割れた爪に触れないように、先輩の親指付け根を握って歩き出した。



