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AM8:20
――スタジオC
「どうしよう……!?どうしたら!?」
スタジオのど真ん中で頭を抱えてる私を、南はストレッチしながら見てる。
余裕綽々。全然動じていない。
「落ち着けって。とりあえず、千景がどのくらい歌とダンスできんのか知りたいし、まずはウォームアップして――……」
「ちゃんと技術が見える選曲がいいのかな?
……いや、でも短時間で仕上げなきゃだから難易度高すぎると逆に下手に見えるかも……」
いっそ力を入れる比重を歌かダンスに寄せる?
例えば、バラードにしてダンスはサビだけ入れるとか……
まとまらない考えをブツブツと口に出して整えていく。
それを意外そうに見ていた南が、不意にクスリと笑った。
「ふは、てっきりただ焦ってるだけかと思ったら。
すっげーマジメに考えてるじゃん」
……ハッ。南もいたの忘れてた。
恥ずかしっ!独り言、全部聞かれてたよね。
照れ隠しに、咳払い。
「んん゛っ……そりゃそうだよ。
一緒にやってくためには、まずはユウキ達に認めてもらわないといけないんだから」
“美嶋日向の威光で入った”
それは言い訳しようのない事実。
だけど、だからこそ。
あなた達と対等に並べるんだって気概くらいは見せなくちゃ不誠実だ。
気合いで拳に力が篭る。
ふと、南が前を向く私の顔にぐいっと近づいてきた。
「!」
びっくりして目を見張る。ちょっとだけ頬が赤くなった。
この人の距離感はバグってる。
心なしか嬉しそうな整った顔が、ちょっと憎くなった。
「グループのこと考えてくれてんの、すげー嬉しい。
ありがとう。千景」
「――う、うん……」
誰かに感謝されたのなんて、初めて。
だから嬉しくて、ちょっとくすぐったい気持ちになる。
「でも、俺らふたりでやるんだから。1人で悩むんじゃなくて、一緒に考えようぜ」
“一緒に”
そっか。
私、1人で焦ってなんとかしなくちゃと思ってたけど。
この難題に、一緒に立ち向かってくれる人がいるんだ。
(それってすごく心強いな)
体が軽くなって、急に視界が開けた気がする。
「頑張ろう、南……!」
思わずそばに置かれた南の手を取って、しっかりと握る。
南は一瞬きょとんとして、それから満面の笑顔になった。
「おう!アイツらのこと、あっと驚かせてやろーぜ!」
音のないスタジオに2人きり。
部屋のど真ん中に座り込んで、絡む視線は熱かった。



