「……失礼しまぁーす……」
ビルの中に入って、3階の“スタジオA”と表示された防音扉をそーっと開ける。
勇んできたけどバーンと豪快に開ける勇気はまだない。
新参者だし、ね?
――キュ、キュ
ドアを開けた途端、フローリングをリズミカルにシューズが擦る音がする。
それから、ダンス練習に使うデモ曲のような音楽。
誰かいる。
ドキッとして、こっそりと中を伺った。
スタジオの奥に見えた、ふわりと軽やかに空気を含むモーヴヘア。
指先まで意識を行き渡らせて余韻を残す、しなやかなステップ。
宇佐美ユウキだ。
壁一面に貼られた鏡に向かって投げかける視線は、必ず同じ一点を見ていて、そこにいる“誰か”を想定してるみたい。
音を立てるのが申し訳なくなるくらいの集中。
自主練なのかな?
まだ集合時間よりだいぶ早い。
上に挙げたユウキの手が、曲に合わせて静かに落ちていく。
その指先を辿るように伏す、視線と横顔。
もうただ立っているだけなのに、余韻で目が離せない。
――綺麗。
ちゃんとしたパフォーマンスを見た気分。
そこでひと段落したらしい。
背後に置いた水ボトルを取ろうと振り返ったユウキと、ついに目が合ってしまった。



