「――お兄ちゃんは、大きな仕事が決まって……
だから、俺の代わりにやれって……」
言った瞬間、南の表情が消える。
私の髪に分け入った大きな手に、わずかに力が篭った。
「……なんだよ、それ」
ぽつり、落ちてきた言葉は小さすぎて拾えない。
憎々しげに細まった目に、私は映っていなかった。
――怒って、る?
なんとなく、思った。
そしてそれは、私に向かってる感情じゃなさそう、とも。
「――あの、」
思わず声をかけてしまった。
南はハッとして、それからすぐに表情を取り戻した。
「ごっめん、一瞬ボーッとした!
そっか。兄ちゃんの代わり、ね」
南の体が離れていって、1人でうんうんと頷いている。
今の雰囲気は、第一印象と同じ。
カラッと明るい陽キャ。
鋭かったり冷たくなったり、優しかったり。
一体どれが本当のこの人なんだろう?
切れ長の瞳がまた私の方を向く。
目が合ってドキッと心臓が跳ねた。
「千景は?アイドル、やりたくないの?」
その問いに、時が止まる。
そんなこと、聞かれるなんて思ってもなかった。
昨日突然、アイドルやれって言われて。
やりたいかどうかなんて、考えることもしなかった。



