しあわせの花子さん

通っている塾で妙なウワサを聞いた。
スマホのアドレス帳に500件登録すると、覚えのないデータが勝手に登録されているというのだった。
それは『花子さん』という名前で登録されており、その番号に電話すると幸せになれるのだとか。

バカみたいと思ったが、夏美は友達もいなくてどうしようもなく暇だった。
中学校に入学して間もないというのに、気づけば夏美はまたいじめの標的にされていたのだ。
どうせ暇なんだしと、適当に登録していくと一日もしないうちに500件に到達した。
すると、ハ行に『花子さん』が登録されていることに気がついた。

まさかね、と思いつつ、電話をかける。
何度目かのコールで相手は出た。

「……もしもし」
男とも女とも判別がつかぬ低い声だった。
「ご依頼はなんですか?」

「え? 依頼?」
意味がわからず聞き返す。

「ご依頼です。あなた、幸せになりたいんですよね?」

「え……ああ、はい」

「あなたが幸せになるために、わたくしは何をすればいいのか教えてください」

「……ええと」
夏美は少し言いよどんだが、頭の中ではハッキリと思い描いていた。
なんで自分がこんな目に遭わなくちゃいけないんだと、恨みを募らせていたのだ。

市井レイナ。
いじめの首謀者はまちがいなく彼女だった。

「……市井さんを……××中学一年四組の市井レイナさんを、不幸におとしめてください」
「不幸とは?」
「たとえば……階段を、転げ落ちるとか……」
「承りました」
すぐに電話は切れて、本当の出来事だったのかもわからないくらいだった。

次の日、学校に行ってみたらレイナは元気に登校していた。
――やっぱりね。そんなこと、あるわけないか。

ところが家に帰ってからのことだった。
『花子さん』から電話がかかってきた。

「もしもし。今、依頼が完了しました。報酬は……」

相手が言いだしたことに驚き、夏美は慌てて割って入った。
「報酬だなんて、わたし、お金もってません」

「いえ、お金ではありません。わたくしへの報酬は、次にあなたが『花子さん』になることをもって代えさせて頂きます」

通話が切れると、考える間もなくすぐさまベルが鳴った。
電話に出ると差し迫った声で「あなた、『花子さん』ですよね」と問いかけてきた。

自分が幸せになるということは、誰かが不幸になるということにほかならない。