「ねーねー、昨日の配信みた?」
「見た見た! カッコよかったよねー」
「えー、私見てない。見逃し配信あるかなあ」
ある日の帰り道。
私――中学二年生の蒼井星奈は、友達と一緒に、お菓子を片手におしゃべりをしながら歩いていた。
「あー食べ終わっちゃった。ゴミ箱ないし、その辺に捨てちゃお」
すると友達のうちの一人が、ごみを道の横の小川に捨ててしまった。
……ぽいっ。
捨てたばかりのごみは、川の端の草に引っ掛かって水の流れをせき止めてる。
「えっ、捨てちゃうの?」
私が思わず口に出すと、ごみを捨てた友達はキョトンとした顔をする。
「でも、ごみ箱もないし、ベタベタだし、そのままカバンには入れられないでしょ」
「それはそうだけど――」
私がとまどっていると、他の友達もぽいぽいとごみをその辺に捨て始めた。
「大丈夫だよ。誰も見てないって」
「そうそう、みんな捨ててるよ?」
確かに、道端や川の周りには、他にも空き缶にたばこの吸い殻、たくさんのごみが散らばってる。
「……う、うん」
私はみんなのマネをして、しぶしぶごみを道に捨てた。
「それじゃ、行こっか!」
「うん!」
「いこいこ」
何事もなかったかのように、その場を立ち去っておしゃべりの続きをはじめるクラスメイトたち。
だけど私は、なぜだか心がずーーんと重くなったのでした。
***
「うーん、やっぱり気になるなあ」
家に帰った後、私はごろりと自分のベッドに横になり、ため息をついた。
スマホを開いても、流行りのマンガを開いても、頭のすみには自分たちが捨てたごみのことがずっと引っかかってる。
あの川、小さいけど、魚が泳いでるのを前に見たことがある。
ごみが捨てられてたら川の流れがせき止められるし、水も汚れて住んでる魚や他の生き物が困るんじゃないかな?
「……よしっ、決めた!」
考えた末、私はビニール袋と軍手、割り箸を持って家を出た。
家からあの川までは五分ほどの距離。
ちゃちゃっとゴミを拾って、パッと戻ってくればいいや。
川に着くと、私たちの捨てたごみはそのままの場所にあった。
「よいしょ」
私は軍手をはめると、割り箸を伸ばし、私たちの捨てたごみを拾い集めた。
ゴミによってせき止められていた川がさらさらと流れていく。
「ふう」
私たちのごみはとりあえず拾い終わったかな。
「……あとは」
私は辺りを見回した。
自分たちのごみは拾い終えたけど、今度は他の人の捨てた周りのごみも気になってきた。
「いいや。ついでに拾っちゃおう」
こうなったら一つも四つも全部も同じだし。
私はサッサと他にも落ちていたごみを拾い集めた。
「……ふう、こんなもんかな?」
いつの間にか持っていた袋はごみでいっぱいになっていた。
そろそろ帰ろうかな、なんて思っていると、急に後ろから拍手の音が聞こえた。
――ぱちぱちぱち。
「いやはや、若いのに感心だね」
……だれ?
振り返ると、そこには白いヒゲを生やした見慣れないお爺さんが立っていた。
「えっと」
私がとまどっていると、お爺さんは目の前の小さなお店を指差した。
「ああ、ワシはあそこの店主じゃ」
お爺さんが指差したのは、川の向かいにある小さな古い雑貨屋さんだった。
お店には、黒ずんだ木の看板がかかっていて、そこには『地球堂』って書いてある。
地球堂? 変わった名前だなあ。
あんなお店、あそこにあったっけ?
私が首をかしげていると、お爺さんは私の集めたごみを指さした。
「そのごみ、持って帰るのは大変だろう。わしの店に捨てていくといい」
「いいんですか?」
「いいからいいから。わしとしても、自分の店の前が汚れているのは良い気がしないしの。掃除をしてくれて助かるよ」
そう言うと、おじいさんは私の腕をぐいぐいと店の中まで引っ張って行った。
「わあ」
雑貨屋さんの中は、古いオルゴールにガラスのペンやランプ、その他キラキラして素敵なものであふれていた。
その中でも、私が特に心惹かれたのは、地球みたいにキレイなブルーのガラス玉のネックレス。
(うわあ……キレイ……)
私がネックレスに見とれていると、お爺さんは奥から大きなゴミ箱を持ってきた。
「ごみはここに捨てるといい」
「は、はいっ。ありがとうございます」
私はごみ入れに袋を入れると、もう一度地球のネックレスを見た。
「……それが気になるのかい?」
後ろから声をかけられ、びくりとする。
「は、はい。でもこれ、値段がなくて……いくらですか?」
私が言うと、お爺さんは笑顔で首を横に振った。
「いや、それは気に入ったのなら君にあげるよ」
「でも――」
「いいから、いいから。家の前の川を掃除してくれたお礼だよ」
そう言うと、お爺さんは私の首に無理やりネックレスをかけた。
「ありがとうございます」
私が頭を下げていると、お爺さんはボソリとつぶやいた。
「……それに、君ならちゃんと地球を守ってくれると思うしね」
「へっ?」
どういうことだろう。
私が首をかしげていると、お爺さんは窓の外を指差した。
「いや、それより外が暗くなってきたし、そろそろ家に帰ったほうがいいんじゃないかな?」
私はお爺さんに言われて窓の外を見た。
外には綺麗な夕焼けが広がっている。
確かに、もうすぐお母さんが仕事から帰ってくる時間だし、あんまり暗くなると怖いからそろそろ帰ったほうがいいかも。
「はい。ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
わたしは頭を下げて『地球堂』を出た。
***
「ふふ、キレイだなあ」
お風呂上り、私は髪を乾かしながら地球のネックレスをうっとりと見つめた。
地球の形をしたネックレスは、机の上のライトを反射してキラキラ輝いてる。まるで宝石みたい。
「……ん?」
と、私はその時、青い地球の形のガラスに灰色っぽい汚れがついていることに気付いた。
「これ何かな。泥?」
私は部屋にあったハンカチでキュッキュッとガラス玉をみがいてみた。
すると――。
……どろろんっ!
「わああっ!?」
急にもくもくと白いケムリが上がり、私は椅子から転がりおちた。
「……いたたた」
そしてお尻をさすりながら立ち上がると、目の前には見たこともない二人の男の子が立っていた。
一人は長い青髪を一つに束ねた色白の美少年。
もう一人は茶色い短髪で背の高いイケメン。
二人とも年は私と同じか少し上くらいで、アイドルグループにいてもおかしくないほど綺麗な顔をしてる。
だけど――二人はまるで中世の騎士みたいな、なんだか変な恰好をしてる。
変なの。コスプレかな? それともアイドルの衣装?
っていうか……この人たち、だれ?
何で私の部屋にいるの?
「ごほっごほっ」
すると、青髪の男の子が咳をしてその場に倒れこんだ。
「大丈夫か、カイト」
もう一人の男の子が「カイト」って呼ばれた男の子を助け起こす。
「あ……あの……大丈夫……ですか?」
私が頭の中をハテナでいっぱいにしていると、茶髪の男の子が急に私を指さした。
「おい、女。何してる」
え?
「……あの、私には『女』じゃなくて星奈って名前があるんだけど」
私が思わず言い返すと、男の子はふうと息を吐き、こう言い直した。
「じゃあ、星奈。早くカイトを安全な場所に連れていけ。カイトは病弱なんだ」
初対面なのに、いきなり呼び捨て?
私はカチンときたんだけど、ゴホゴホと苦しそうに咳きこむ男の子――カイトくんを見て少し可哀想になった。
この子、風邪でも引いているのかな? それとも何か病気?
「と、とりあえず私のベッドで良ければ……」
恐る恐る自分のベッドに案内すると、カイトくんはもう一人の男の子に肩を借りて私のベッドに横になった。
「だ……大丈夫?」
私が尋ねると、カイトくんは青白い顔でうなずいた。
「ああ。ありがとう。久しぶりに地上に出たから少し具合が悪くなってしまって……。それより、僕らの封印を解いてくれたのは君?」
カイトくんの綺麗なブルーの瞳に、心臓がトクンと鳴る。
うわあ、綺麗な瞳。でも――。
「封印? 一体何のこと?」
私がキョトンとしていると、茶髪の男の子がイライラしたように私の机の上にある地球型のガラス玉を指さした。
「あれだよ。あの地球をお前が磨いただろ。それで俺たちの封印が解けたんだ」
「地球って……あのネックレス? あのネックレスにあなたたちが封印されてたの?」
信じられない!
でも、あのガラス球を磨いたら白い煙が出て、この二人がどこからともなく現れたのは本当だし……。
私が戸惑っていると、カイトくんがそっと私の手をにぎった。
ドキリと心臓が鳴る。
「お願いだ。君が……十七人のSDGs騎士たちを集めて、この地球を救ってくれないか? 君はきっと、この地球を守るために選ばれた少女に違いない」
えっ……?
この地球を守るって? 選ばれた?
十七人のSDGs騎士たちって……いったい何?
「え……えと……」
「ああ、自己紹介が遅れたね」
カイトくんがゆっくりと身を起こす。
「私の名前はカイト。この地球の海の豊かさを守る妖精なんだ。そしてそっちがリク。陸の豊かさを守る妖精だよ。私たちは、この地球を守る十七人のSDGs騎士のうちの一人なんだ」
茶髪の男の子――リクくんは私のほうをじろりとにらむと、ぽつりと「よろしく」と言った。
「よ……よろしく」
私はあっけにとられながら頭を下げた。
よく分からないけど、カイトくんは海を守る妖精、リクくんは陸を守る妖精で、二人は地球を守る十七人の騎士ということみたい。
でもそんなこと、やっぱり簡単には信じられないよ。
「簡単には信じられねーって顔してるな」
リクくんがつぶやく。
すると廊下を歩く足音がして、お母さんの声が部屋に響いた。
「星奈。さっきからドタバタと何の音?」
わわっ、二人が部屋にいるとことを見られたら大変!
私が慌てていると、カイトくんはクスリと笑った。
「ちょうどいい。リク、君の力を見せてあげたら?」
「ちっ、分かったよ」
リクくんは軽く舌打ちをすると、がらりと部屋のドアを開けた。
ちょっと、そんなことしたらお母さんに見つかっちゃうよ~!
「え? あなたは――」
すると陸くんは、目の前に立っているお母さんのおでこに人差し指を当てた。
リクくんの瞳がオレンジに光る。
「――嫌だな、おばさん。俺たちは星奈の家に居候しているいとこだろ。今日からここに住むって言ってたの忘れたの?」
へ? どういうこと?
私が目をぱちくりさせていると、お母さんはうつろな瞳で「いとこ……」とつぶやいた。
やがてお母さんは目の焦点が定まったかと思うとニコリと二人に笑いかけた。
「……ああ、そうだったわね。三人とも、夜更かししないで早く寝るのよ」
そう言って、部屋から去って行くお母さん。
私はその後ろ姿をぼうぜんと見つめた。
「え? 今のは?」
「まあ、妖精の力ってやつかな」
リクくんが胸を張る。
「えっ、すごい。っていうか……」
さっきリクくん、「今日からうちに住む」って言ってなかった?
「ま、そういうわけだから、今日からここに世話になるぜ」
リクくんが私の肩に手を置き、イジワルそうな笑みを浮かべる。
「え?」
するとカイトくんも立ち上がり、私の手をぎゅっと握りしめてつぶらな瞳で見つめてきた。
「ご迷惑をおかけするかもしれませんが、これからよろしくお願いします」
ええええええ?
そんなわけで、私はリクくんとカイトくん、二人のイケメン妖精たちと一緒に暮らすことになったのでした。
***
次の日。
「はあ」
私は学校に着くなり、大きなため息をついた。
「どうしたの? 美海」
「なんか元気ないね」
クラスメイトたちが私の顔を不思議そうにのぞきこむ。
「う、ううん、何でもないよ!」
私は笑ってごまかした。
まさか、二人のSDGs騎士と家に同居してるだなんて言えないよ。
結局、一人暮らししてるお兄ちゃんの部屋を二人には使ってもらうことになったけど――男の子と住むだなんて緊張しちゃう。
それに『地球を救ってくれ』だなんて、ただの中学生の私にできるわけない。
そういうのって、もっと政治家とか、偉い大人の人が何とかするものじゃないの?
……はあ。
私は頬杖をついて窓の外を見た。
家の中は落ち着かないし、ゆっくり過ごせるのは学校にいる間だけになりそう。
私がそんなことを考えていると、ガラリと教室のドアが開いて日直の女子が入って来た。
「ねえねえ、今日、転校生がうちのクラスに来るみたい! しかも二人も!」
へえ、転校生? こんな時期に? 二人も?
その時、私の胸にはイヤ~な予感がよぎった。
「しかもウワサによると二人とも超イケメンらしいよ!」
男子……それも超イケメン?
ま、まさかね……。
私がそんなことを考えていると、ガラリとドアが開いた。
「今日は転入生を紹介するぞ!」
先生の後ろについて入って来たのは――。
「はじめまして。豊星海斗です。皆さんどうぞよろしくお願いします」
そう言って笑ったのは、私の家にいるはずのカイトくん。
さらにその後ろには、リクくんが不愛想な顔で立っていた。
「……豊星陸。よろしく」
ええええっ。
リクくんにカイトくん!?
な、何で二人が中学校にいるの!?
ってか、その制服はどうしたの?
まさか魔法で出した……とか?
私が口をパクパクさせていると、先生が二人をこんな風に紹介した。
「二人はいとこである蒼井さんの家でお世話になっているそうだ。みんな仲良くしてくれ」
クラスメイトたちがいっせいに私のほうを見る。
「えっ? 星奈ちゃんのいとこ……?」
「イケメンでうらやましい!」
「一緒に住んでるの? いいなー」
私は恥ずかしさで逃げ出したくなった。
***
「な、なんで二人が学校にいるの?」
休み時間になり、私は二人を廊下にこっそりと引っ張って尋ねた。
「なんでって……家にいてもヒマだから?」
リク――じゃなくて陸くんが頭をかきながらしれっと答える。
「ひ、ヒマって」
「それにこの地球を守る活動をもっといろんな人に広めたいしね。そのためにはこの中学校はうってつけだよ」
海斗くんがニコニコと教えてくれる。
「うってつけって……ここは中学校だよ? ただの中学生の私たちに一体何ができるの?」
「中学生にだって、できることはあるよ。例えば君がした川の掃除」
「あれが何?」
私が首をかしげてると、陸くんがため息をついた。
「川に捨てたごみは川の生物の害になるだけじゃない。陸の生物の害にもなるし、海に流れ着いて海の生態系を壊すことにもつながる。だからお前がしたのは立派な地球を守る活動だよ」
「は、はあ」
私があんまりピンとこなくて首をかしげていると、ガラリと教室のドアが開いた。
「あ、いたいた。陸くんに海斗くん!」
現れたのは、担任の先生だった。
「二人とも、入るクラブはもう決めたの?」
「クラブ?」
首をかしげる二人に、私は教えてあげた。
「うちの中学では、生徒はみんなどこかのクラブに入らなくちゃいけない決まりなの」
「ふーん」
興味なさそうに陸くんがクラブ一覧の紙を受け取る。
「私は体が弱いから、運動系のクラブはちょっと……」
海斗くんが困ったように笑う。
「クラブって言っても大抵は週一回か二回だし、文科系のクラブも多いから大丈夫だよ。どのクラブに入るか迷った時は、掛け持ちもできるし、気楽に考えてね」
そう言うと、先生はクラブ活動について書かれた紙を二人に渡して職員室へと戻った。
「クラブ活動……ね」
すると、陸くんが何かを思いついたようにニヤリとする。
「なあ、星奈。これって新たにクラブを立ち上げても良いのか?」
「えっ……良いと思うけど」
まさか陸くん、新しいクラブを作る気? 一体何のクラブ?
私が頭の中をハテナでいっぱいにしていると、陸くんは不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「よし、それじゃさっそくこの学校に『地球クラブ』を立ち上げるぞ」
……へ?
な、何それ!?
目をぱちくりさせる私の横で、海斗くんは無邪気に拍手をした。
「すごいよ、陸、名案だね!」
「だろ? クラブ活動で地球を守るように呼びかければ、他のSDGs騎士たちも見つかるかもしれないしな」
二人で盛り上がる海斗くんと陸くん。
「そ……そう。それじゃ、がんばってね……」
と、私が教室に戻ろうとすると、急に陸くんが私の腕をぐいっと引っ張って、私を壁にドンと押し付けた。
「……へっ?」
「どこへ行く。お前も『地球クラブ』に入るんだよ」
陸くんの冷たい瞳が光る。
「は……はあ!?」
「当然だろ。お前はこの地球の未来を『地球堂』の店主から任されたんだ。お前にも当然参加してもらう。幸いにも、クラブはかけ持ちできるらしいしな」
「……う」
確かにクラブ活動はかけ持ちできるし、私は学校祭の前以外はほとんど活動のない絵本クラブに入ってる。
入れないことはないんだけど――。
そんな怪しげでダサい名前のクラブ、いやだよ……!
「じゃあ、決まりな。放課後一緒に職員室についてくるように」
だけど私が何か言う前に、勝手に陸くんが私を部員にすることに決めてしまった。
もう……強引なんだから!
***
そしてその日の放課後、私たち「地球クラブ」の第一回目の活動がスタートした。
「よし、ここが俺たち地球クラブの部室だな」
陸くんが一年三組の教室に入り大きく手を広げる。
その様子を目を丸くして見ていたのは、同じく一年三組でクラブ活動をする手芸クラブの男の子だった。
人数も少なくて、できたばかりの私たち地球クラブは、自分たちの部室が無くて手芸クラブと同じ一年三組の教室で活動することになっちゃったってわけ。
「ごめんね、騒がしくて」
私が頭を下げると、手芸クラブの男の子はニコリと微笑んだ。
「いえ、大丈夫ですよ。今日はみんながお休みで僕一人ですし、寂しかったのでちょうどいいです」
や……優しいなあ。誰かさんとは大違い!
それにこの子、大きな目にさらさらの色素の薄い髪。女の子みたいに整った顔立ちでとっても可愛い。
一年生かな? こんな可愛い男子、この学校にいたんだぁ。
「僕は手芸部の能源環といいます」
「よろしく、環くん」
「ところでみなさんは、どんな活動をするクラブなんですか?」
人懐こい笑顔で私に尋ねてくる環くん。
「えと……」
私は顔をぽりぽりとかいて陸くんの顔を見た。
陸くんはあきれたように息をふうと吐いた後、環くんにむかって説明をした。
「俺たち地球クラブの活動は、簡単に言うと地球を守る活動だ。SDGsという言葉は知ってるか?」
陸くんが尋ねると、環くんはきゅるんとした目で答えた。
「なんとなく、言葉だけは聞いたことがありますけど」
すると今度は海斗くんが教えてくれる。
「SDGsっていうのは、Sustainable Development Goals――『持続可能な開発目標』の略だよ」
海斗くんが「SDGs」と黒板に書いた。
「持続可能?」
「うん。この地球には、貧困だとか差別、気候変動みたいに、人類がこの先もずっとこの地球で暮らしていく上で障害となる問題がたくさんあるんだ。その問題を解決してより良い世界にするための十七の目標をSDGsと言うんだよ」
「そうなんだ」
私が言うと、陸くんはじろりとこちらをにらんだ。
「お前、そんなことも知らないで地球クラブに入ったのかよ」
「う、うるさいっ。陸くんが勝手にこのクラブに私を入れたんじゃん」
あーもう、陸くんったらなんでこんなに意地悪なんだろう。
私がむくれていると、環くんは少し首をかしげてこう言った。
「でも持続可能な世界にするために、僕たちにどんなことができるんですか?」
「できることは色々ある。例えば――」
「例えば?」
環くんが聞き返すと、陸くんはニヤリと笑った。
「……それは、校内を一緒に回ってみればわかる」
何それっ。
だけど意外にも環くんは乗り気で返事をした。
「はい、そうしましょう!」
そんなわけで、私たち四人は地球のために何かできることがないか、学校内を見回ってみることにした。
すると海斗くんが空き教室を指さす。
「見て。誰もいないのに、電気がつけっぱなしだ」
蒼星くんが指さす方向を見ると、確かに空き教室に明かりがつけっぱなしになってる。
「空き教室の電気を消すのもSDGsなんですか?」
環くんが首をかしげると、陸くんが説明をしてくれる。
「日本で発電量が最も多いのは火力発電だ。だが、火力発電は石油や石炭を燃やして電気を作っているから、燃やす時に二酸化炭素を排出し、それが地球温暖化につながるんだ」
「つまり、節電するだけでも地球温暖化対策になるってことですか?」
「そうだ」
すると環くんは、少ししんみりした顔になった。
「実は、僕のお婆ちゃんの家の目の前には海があって、小さいころは砂浜でよく遊んでたんだけど、最近、どんどん砂浜が減ってきてるんです」
「そうなの?」
「はい」
環くんはうなずきながら、ちょっと涙目になった。
「お父さんが言うには、それは温暖化で北極や南極の氷が解けて海の水が増えてるせいだって」
「そういえば、最近、地球温暖化ってよく聞くかも。うちのお母さんも、昔はこの辺なら夏休みでもクーラーなしで過ごせてたし、熱すぎてプールが中止だなんてなかったって言ってた」
私が言うと、環くんは目に涙を貯め、ぎゅっとこぶしをにぎりしめた。
「このままだと、砂浜が無くなっちゃう。でも僕、そんなのいやだから、僕は電気を無駄にしない!」
そう言って、環くんは空き教室の電気を消した。
――パチン。
「環くん……」
すると、私の首から下げていた地球のネックレスが急に黄色く光った。
「えっ……何!?」
見ると、ネックレスだけじゃなく環くんの体も光ってる。そして――。
気がつくと環くんの髪と目が黄色に光り、騎士みたいな姿になっていた。
「えっ……えええ!? これ、何ですか!?」
環くんが目をぱちくりさせる。
すると、海斗くんがぽつりとつぶやいた。
「驚いたね。君がSDGs騎士だったなんて」
えっ、環くんがSDGs騎士?
海斗くんと陸くんが目を合わせてうなずき合う。
「ああ、どうやらそのようだな」
「でも……環くんは人間なのに?」
私が目をぱちくりさせていると、海斗くんが教えてくれる。
「私たちが地球のネックレスに封印されていたように、環くんという人間の体に騎士の魂が封印されていたということなんだろうね」
その言葉を受け、陸くんもうなずく。
「ああ。恐らく環はこの姿からして『エネルギーをみんなに、そしてクリーンに』という目標を司るSDGs騎士だろう」
「そう……なの?」
キョトンとする私の横で、環くんが手を挙げて喜ぶ。
「よく分からないけど、僕には地球を守る力があるってこと? やったー!」
「やったー」って……環くん、本当に良いの!?
でもまあ……本人が納得してるのなら、それでいいのかな?
そんなわけで三人目の騎士もそろい、私たちはここ『地球クラブ』でSDGs騎士たちを集めて、地球を救うことになったのでした。
「見た見た! カッコよかったよねー」
「えー、私見てない。見逃し配信あるかなあ」
ある日の帰り道。
私――中学二年生の蒼井星奈は、友達と一緒に、お菓子を片手におしゃべりをしながら歩いていた。
「あー食べ終わっちゃった。ゴミ箱ないし、その辺に捨てちゃお」
すると友達のうちの一人が、ごみを道の横の小川に捨ててしまった。
……ぽいっ。
捨てたばかりのごみは、川の端の草に引っ掛かって水の流れをせき止めてる。
「えっ、捨てちゃうの?」
私が思わず口に出すと、ごみを捨てた友達はキョトンとした顔をする。
「でも、ごみ箱もないし、ベタベタだし、そのままカバンには入れられないでしょ」
「それはそうだけど――」
私がとまどっていると、他の友達もぽいぽいとごみをその辺に捨て始めた。
「大丈夫だよ。誰も見てないって」
「そうそう、みんな捨ててるよ?」
確かに、道端や川の周りには、他にも空き缶にたばこの吸い殻、たくさんのごみが散らばってる。
「……う、うん」
私はみんなのマネをして、しぶしぶごみを道に捨てた。
「それじゃ、行こっか!」
「うん!」
「いこいこ」
何事もなかったかのように、その場を立ち去っておしゃべりの続きをはじめるクラスメイトたち。
だけど私は、なぜだか心がずーーんと重くなったのでした。
***
「うーん、やっぱり気になるなあ」
家に帰った後、私はごろりと自分のベッドに横になり、ため息をついた。
スマホを開いても、流行りのマンガを開いても、頭のすみには自分たちが捨てたごみのことがずっと引っかかってる。
あの川、小さいけど、魚が泳いでるのを前に見たことがある。
ごみが捨てられてたら川の流れがせき止められるし、水も汚れて住んでる魚や他の生き物が困るんじゃないかな?
「……よしっ、決めた!」
考えた末、私はビニール袋と軍手、割り箸を持って家を出た。
家からあの川までは五分ほどの距離。
ちゃちゃっとゴミを拾って、パッと戻ってくればいいや。
川に着くと、私たちの捨てたごみはそのままの場所にあった。
「よいしょ」
私は軍手をはめると、割り箸を伸ばし、私たちの捨てたごみを拾い集めた。
ゴミによってせき止められていた川がさらさらと流れていく。
「ふう」
私たちのごみはとりあえず拾い終わったかな。
「……あとは」
私は辺りを見回した。
自分たちのごみは拾い終えたけど、今度は他の人の捨てた周りのごみも気になってきた。
「いいや。ついでに拾っちゃおう」
こうなったら一つも四つも全部も同じだし。
私はサッサと他にも落ちていたごみを拾い集めた。
「……ふう、こんなもんかな?」
いつの間にか持っていた袋はごみでいっぱいになっていた。
そろそろ帰ろうかな、なんて思っていると、急に後ろから拍手の音が聞こえた。
――ぱちぱちぱち。
「いやはや、若いのに感心だね」
……だれ?
振り返ると、そこには白いヒゲを生やした見慣れないお爺さんが立っていた。
「えっと」
私がとまどっていると、お爺さんは目の前の小さなお店を指差した。
「ああ、ワシはあそこの店主じゃ」
お爺さんが指差したのは、川の向かいにある小さな古い雑貨屋さんだった。
お店には、黒ずんだ木の看板がかかっていて、そこには『地球堂』って書いてある。
地球堂? 変わった名前だなあ。
あんなお店、あそこにあったっけ?
私が首をかしげていると、お爺さんは私の集めたごみを指さした。
「そのごみ、持って帰るのは大変だろう。わしの店に捨てていくといい」
「いいんですか?」
「いいからいいから。わしとしても、自分の店の前が汚れているのは良い気がしないしの。掃除をしてくれて助かるよ」
そう言うと、おじいさんは私の腕をぐいぐいと店の中まで引っ張って行った。
「わあ」
雑貨屋さんの中は、古いオルゴールにガラスのペンやランプ、その他キラキラして素敵なものであふれていた。
その中でも、私が特に心惹かれたのは、地球みたいにキレイなブルーのガラス玉のネックレス。
(うわあ……キレイ……)
私がネックレスに見とれていると、お爺さんは奥から大きなゴミ箱を持ってきた。
「ごみはここに捨てるといい」
「は、はいっ。ありがとうございます」
私はごみ入れに袋を入れると、もう一度地球のネックレスを見た。
「……それが気になるのかい?」
後ろから声をかけられ、びくりとする。
「は、はい。でもこれ、値段がなくて……いくらですか?」
私が言うと、お爺さんは笑顔で首を横に振った。
「いや、それは気に入ったのなら君にあげるよ」
「でも――」
「いいから、いいから。家の前の川を掃除してくれたお礼だよ」
そう言うと、お爺さんは私の首に無理やりネックレスをかけた。
「ありがとうございます」
私が頭を下げていると、お爺さんはボソリとつぶやいた。
「……それに、君ならちゃんと地球を守ってくれると思うしね」
「へっ?」
どういうことだろう。
私が首をかしげていると、お爺さんは窓の外を指差した。
「いや、それより外が暗くなってきたし、そろそろ家に帰ったほうがいいんじゃないかな?」
私はお爺さんに言われて窓の外を見た。
外には綺麗な夕焼けが広がっている。
確かに、もうすぐお母さんが仕事から帰ってくる時間だし、あんまり暗くなると怖いからそろそろ帰ったほうがいいかも。
「はい。ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
わたしは頭を下げて『地球堂』を出た。
***
「ふふ、キレイだなあ」
お風呂上り、私は髪を乾かしながら地球のネックレスをうっとりと見つめた。
地球の形をしたネックレスは、机の上のライトを反射してキラキラ輝いてる。まるで宝石みたい。
「……ん?」
と、私はその時、青い地球の形のガラスに灰色っぽい汚れがついていることに気付いた。
「これ何かな。泥?」
私は部屋にあったハンカチでキュッキュッとガラス玉をみがいてみた。
すると――。
……どろろんっ!
「わああっ!?」
急にもくもくと白いケムリが上がり、私は椅子から転がりおちた。
「……いたたた」
そしてお尻をさすりながら立ち上がると、目の前には見たこともない二人の男の子が立っていた。
一人は長い青髪を一つに束ねた色白の美少年。
もう一人は茶色い短髪で背の高いイケメン。
二人とも年は私と同じか少し上くらいで、アイドルグループにいてもおかしくないほど綺麗な顔をしてる。
だけど――二人はまるで中世の騎士みたいな、なんだか変な恰好をしてる。
変なの。コスプレかな? それともアイドルの衣装?
っていうか……この人たち、だれ?
何で私の部屋にいるの?
「ごほっごほっ」
すると、青髪の男の子が咳をしてその場に倒れこんだ。
「大丈夫か、カイト」
もう一人の男の子が「カイト」って呼ばれた男の子を助け起こす。
「あ……あの……大丈夫……ですか?」
私が頭の中をハテナでいっぱいにしていると、茶髪の男の子が急に私を指さした。
「おい、女。何してる」
え?
「……あの、私には『女』じゃなくて星奈って名前があるんだけど」
私が思わず言い返すと、男の子はふうと息を吐き、こう言い直した。
「じゃあ、星奈。早くカイトを安全な場所に連れていけ。カイトは病弱なんだ」
初対面なのに、いきなり呼び捨て?
私はカチンときたんだけど、ゴホゴホと苦しそうに咳きこむ男の子――カイトくんを見て少し可哀想になった。
この子、風邪でも引いているのかな? それとも何か病気?
「と、とりあえず私のベッドで良ければ……」
恐る恐る自分のベッドに案内すると、カイトくんはもう一人の男の子に肩を借りて私のベッドに横になった。
「だ……大丈夫?」
私が尋ねると、カイトくんは青白い顔でうなずいた。
「ああ。ありがとう。久しぶりに地上に出たから少し具合が悪くなってしまって……。それより、僕らの封印を解いてくれたのは君?」
カイトくんの綺麗なブルーの瞳に、心臓がトクンと鳴る。
うわあ、綺麗な瞳。でも――。
「封印? 一体何のこと?」
私がキョトンとしていると、茶髪の男の子がイライラしたように私の机の上にある地球型のガラス玉を指さした。
「あれだよ。あの地球をお前が磨いただろ。それで俺たちの封印が解けたんだ」
「地球って……あのネックレス? あのネックレスにあなたたちが封印されてたの?」
信じられない!
でも、あのガラス球を磨いたら白い煙が出て、この二人がどこからともなく現れたのは本当だし……。
私が戸惑っていると、カイトくんがそっと私の手をにぎった。
ドキリと心臓が鳴る。
「お願いだ。君が……十七人のSDGs騎士たちを集めて、この地球を救ってくれないか? 君はきっと、この地球を守るために選ばれた少女に違いない」
えっ……?
この地球を守るって? 選ばれた?
十七人のSDGs騎士たちって……いったい何?
「え……えと……」
「ああ、自己紹介が遅れたね」
カイトくんがゆっくりと身を起こす。
「私の名前はカイト。この地球の海の豊かさを守る妖精なんだ。そしてそっちがリク。陸の豊かさを守る妖精だよ。私たちは、この地球を守る十七人のSDGs騎士のうちの一人なんだ」
茶髪の男の子――リクくんは私のほうをじろりとにらむと、ぽつりと「よろしく」と言った。
「よ……よろしく」
私はあっけにとられながら頭を下げた。
よく分からないけど、カイトくんは海を守る妖精、リクくんは陸を守る妖精で、二人は地球を守る十七人の騎士ということみたい。
でもそんなこと、やっぱり簡単には信じられないよ。
「簡単には信じられねーって顔してるな」
リクくんがつぶやく。
すると廊下を歩く足音がして、お母さんの声が部屋に響いた。
「星奈。さっきからドタバタと何の音?」
わわっ、二人が部屋にいるとことを見られたら大変!
私が慌てていると、カイトくんはクスリと笑った。
「ちょうどいい。リク、君の力を見せてあげたら?」
「ちっ、分かったよ」
リクくんは軽く舌打ちをすると、がらりと部屋のドアを開けた。
ちょっと、そんなことしたらお母さんに見つかっちゃうよ~!
「え? あなたは――」
すると陸くんは、目の前に立っているお母さんのおでこに人差し指を当てた。
リクくんの瞳がオレンジに光る。
「――嫌だな、おばさん。俺たちは星奈の家に居候しているいとこだろ。今日からここに住むって言ってたの忘れたの?」
へ? どういうこと?
私が目をぱちくりさせていると、お母さんはうつろな瞳で「いとこ……」とつぶやいた。
やがてお母さんは目の焦点が定まったかと思うとニコリと二人に笑いかけた。
「……ああ、そうだったわね。三人とも、夜更かししないで早く寝るのよ」
そう言って、部屋から去って行くお母さん。
私はその後ろ姿をぼうぜんと見つめた。
「え? 今のは?」
「まあ、妖精の力ってやつかな」
リクくんが胸を張る。
「えっ、すごい。っていうか……」
さっきリクくん、「今日からうちに住む」って言ってなかった?
「ま、そういうわけだから、今日からここに世話になるぜ」
リクくんが私の肩に手を置き、イジワルそうな笑みを浮かべる。
「え?」
するとカイトくんも立ち上がり、私の手をぎゅっと握りしめてつぶらな瞳で見つめてきた。
「ご迷惑をおかけするかもしれませんが、これからよろしくお願いします」
ええええええ?
そんなわけで、私はリクくんとカイトくん、二人のイケメン妖精たちと一緒に暮らすことになったのでした。
***
次の日。
「はあ」
私は学校に着くなり、大きなため息をついた。
「どうしたの? 美海」
「なんか元気ないね」
クラスメイトたちが私の顔を不思議そうにのぞきこむ。
「う、ううん、何でもないよ!」
私は笑ってごまかした。
まさか、二人のSDGs騎士と家に同居してるだなんて言えないよ。
結局、一人暮らししてるお兄ちゃんの部屋を二人には使ってもらうことになったけど――男の子と住むだなんて緊張しちゃう。
それに『地球を救ってくれ』だなんて、ただの中学生の私にできるわけない。
そういうのって、もっと政治家とか、偉い大人の人が何とかするものじゃないの?
……はあ。
私は頬杖をついて窓の外を見た。
家の中は落ち着かないし、ゆっくり過ごせるのは学校にいる間だけになりそう。
私がそんなことを考えていると、ガラリと教室のドアが開いて日直の女子が入って来た。
「ねえねえ、今日、転校生がうちのクラスに来るみたい! しかも二人も!」
へえ、転校生? こんな時期に? 二人も?
その時、私の胸にはイヤ~な予感がよぎった。
「しかもウワサによると二人とも超イケメンらしいよ!」
男子……それも超イケメン?
ま、まさかね……。
私がそんなことを考えていると、ガラリとドアが開いた。
「今日は転入生を紹介するぞ!」
先生の後ろについて入って来たのは――。
「はじめまして。豊星海斗です。皆さんどうぞよろしくお願いします」
そう言って笑ったのは、私の家にいるはずのカイトくん。
さらにその後ろには、リクくんが不愛想な顔で立っていた。
「……豊星陸。よろしく」
ええええっ。
リクくんにカイトくん!?
な、何で二人が中学校にいるの!?
ってか、その制服はどうしたの?
まさか魔法で出した……とか?
私が口をパクパクさせていると、先生が二人をこんな風に紹介した。
「二人はいとこである蒼井さんの家でお世話になっているそうだ。みんな仲良くしてくれ」
クラスメイトたちがいっせいに私のほうを見る。
「えっ? 星奈ちゃんのいとこ……?」
「イケメンでうらやましい!」
「一緒に住んでるの? いいなー」
私は恥ずかしさで逃げ出したくなった。
***
「な、なんで二人が学校にいるの?」
休み時間になり、私は二人を廊下にこっそりと引っ張って尋ねた。
「なんでって……家にいてもヒマだから?」
リク――じゃなくて陸くんが頭をかきながらしれっと答える。
「ひ、ヒマって」
「それにこの地球を守る活動をもっといろんな人に広めたいしね。そのためにはこの中学校はうってつけだよ」
海斗くんがニコニコと教えてくれる。
「うってつけって……ここは中学校だよ? ただの中学生の私たちに一体何ができるの?」
「中学生にだって、できることはあるよ。例えば君がした川の掃除」
「あれが何?」
私が首をかしげてると、陸くんがため息をついた。
「川に捨てたごみは川の生物の害になるだけじゃない。陸の生物の害にもなるし、海に流れ着いて海の生態系を壊すことにもつながる。だからお前がしたのは立派な地球を守る活動だよ」
「は、はあ」
私があんまりピンとこなくて首をかしげていると、ガラリと教室のドアが開いた。
「あ、いたいた。陸くんに海斗くん!」
現れたのは、担任の先生だった。
「二人とも、入るクラブはもう決めたの?」
「クラブ?」
首をかしげる二人に、私は教えてあげた。
「うちの中学では、生徒はみんなどこかのクラブに入らなくちゃいけない決まりなの」
「ふーん」
興味なさそうに陸くんがクラブ一覧の紙を受け取る。
「私は体が弱いから、運動系のクラブはちょっと……」
海斗くんが困ったように笑う。
「クラブって言っても大抵は週一回か二回だし、文科系のクラブも多いから大丈夫だよ。どのクラブに入るか迷った時は、掛け持ちもできるし、気楽に考えてね」
そう言うと、先生はクラブ活動について書かれた紙を二人に渡して職員室へと戻った。
「クラブ活動……ね」
すると、陸くんが何かを思いついたようにニヤリとする。
「なあ、星奈。これって新たにクラブを立ち上げても良いのか?」
「えっ……良いと思うけど」
まさか陸くん、新しいクラブを作る気? 一体何のクラブ?
私が頭の中をハテナでいっぱいにしていると、陸くんは不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「よし、それじゃさっそくこの学校に『地球クラブ』を立ち上げるぞ」
……へ?
な、何それ!?
目をぱちくりさせる私の横で、海斗くんは無邪気に拍手をした。
「すごいよ、陸、名案だね!」
「だろ? クラブ活動で地球を守るように呼びかければ、他のSDGs騎士たちも見つかるかもしれないしな」
二人で盛り上がる海斗くんと陸くん。
「そ……そう。それじゃ、がんばってね……」
と、私が教室に戻ろうとすると、急に陸くんが私の腕をぐいっと引っ張って、私を壁にドンと押し付けた。
「……へっ?」
「どこへ行く。お前も『地球クラブ』に入るんだよ」
陸くんの冷たい瞳が光る。
「は……はあ!?」
「当然だろ。お前はこの地球の未来を『地球堂』の店主から任されたんだ。お前にも当然参加してもらう。幸いにも、クラブはかけ持ちできるらしいしな」
「……う」
確かにクラブ活動はかけ持ちできるし、私は学校祭の前以外はほとんど活動のない絵本クラブに入ってる。
入れないことはないんだけど――。
そんな怪しげでダサい名前のクラブ、いやだよ……!
「じゃあ、決まりな。放課後一緒に職員室についてくるように」
だけど私が何か言う前に、勝手に陸くんが私を部員にすることに決めてしまった。
もう……強引なんだから!
***
そしてその日の放課後、私たち「地球クラブ」の第一回目の活動がスタートした。
「よし、ここが俺たち地球クラブの部室だな」
陸くんが一年三組の教室に入り大きく手を広げる。
その様子を目を丸くして見ていたのは、同じく一年三組でクラブ活動をする手芸クラブの男の子だった。
人数も少なくて、できたばかりの私たち地球クラブは、自分たちの部室が無くて手芸クラブと同じ一年三組の教室で活動することになっちゃったってわけ。
「ごめんね、騒がしくて」
私が頭を下げると、手芸クラブの男の子はニコリと微笑んだ。
「いえ、大丈夫ですよ。今日はみんながお休みで僕一人ですし、寂しかったのでちょうどいいです」
や……優しいなあ。誰かさんとは大違い!
それにこの子、大きな目にさらさらの色素の薄い髪。女の子みたいに整った顔立ちでとっても可愛い。
一年生かな? こんな可愛い男子、この学校にいたんだぁ。
「僕は手芸部の能源環といいます」
「よろしく、環くん」
「ところでみなさんは、どんな活動をするクラブなんですか?」
人懐こい笑顔で私に尋ねてくる環くん。
「えと……」
私は顔をぽりぽりとかいて陸くんの顔を見た。
陸くんはあきれたように息をふうと吐いた後、環くんにむかって説明をした。
「俺たち地球クラブの活動は、簡単に言うと地球を守る活動だ。SDGsという言葉は知ってるか?」
陸くんが尋ねると、環くんはきゅるんとした目で答えた。
「なんとなく、言葉だけは聞いたことがありますけど」
すると今度は海斗くんが教えてくれる。
「SDGsっていうのは、Sustainable Development Goals――『持続可能な開発目標』の略だよ」
海斗くんが「SDGs」と黒板に書いた。
「持続可能?」
「うん。この地球には、貧困だとか差別、気候変動みたいに、人類がこの先もずっとこの地球で暮らしていく上で障害となる問題がたくさんあるんだ。その問題を解決してより良い世界にするための十七の目標をSDGsと言うんだよ」
「そうなんだ」
私が言うと、陸くんはじろりとこちらをにらんだ。
「お前、そんなことも知らないで地球クラブに入ったのかよ」
「う、うるさいっ。陸くんが勝手にこのクラブに私を入れたんじゃん」
あーもう、陸くんったらなんでこんなに意地悪なんだろう。
私がむくれていると、環くんは少し首をかしげてこう言った。
「でも持続可能な世界にするために、僕たちにどんなことができるんですか?」
「できることは色々ある。例えば――」
「例えば?」
環くんが聞き返すと、陸くんはニヤリと笑った。
「……それは、校内を一緒に回ってみればわかる」
何それっ。
だけど意外にも環くんは乗り気で返事をした。
「はい、そうしましょう!」
そんなわけで、私たち四人は地球のために何かできることがないか、学校内を見回ってみることにした。
すると海斗くんが空き教室を指さす。
「見て。誰もいないのに、電気がつけっぱなしだ」
蒼星くんが指さす方向を見ると、確かに空き教室に明かりがつけっぱなしになってる。
「空き教室の電気を消すのもSDGsなんですか?」
環くんが首をかしげると、陸くんが説明をしてくれる。
「日本で発電量が最も多いのは火力発電だ。だが、火力発電は石油や石炭を燃やして電気を作っているから、燃やす時に二酸化炭素を排出し、それが地球温暖化につながるんだ」
「つまり、節電するだけでも地球温暖化対策になるってことですか?」
「そうだ」
すると環くんは、少ししんみりした顔になった。
「実は、僕のお婆ちゃんの家の目の前には海があって、小さいころは砂浜でよく遊んでたんだけど、最近、どんどん砂浜が減ってきてるんです」
「そうなの?」
「はい」
環くんはうなずきながら、ちょっと涙目になった。
「お父さんが言うには、それは温暖化で北極や南極の氷が解けて海の水が増えてるせいだって」
「そういえば、最近、地球温暖化ってよく聞くかも。うちのお母さんも、昔はこの辺なら夏休みでもクーラーなしで過ごせてたし、熱すぎてプールが中止だなんてなかったって言ってた」
私が言うと、環くんは目に涙を貯め、ぎゅっとこぶしをにぎりしめた。
「このままだと、砂浜が無くなっちゃう。でも僕、そんなのいやだから、僕は電気を無駄にしない!」
そう言って、環くんは空き教室の電気を消した。
――パチン。
「環くん……」
すると、私の首から下げていた地球のネックレスが急に黄色く光った。
「えっ……何!?」
見ると、ネックレスだけじゃなく環くんの体も光ってる。そして――。
気がつくと環くんの髪と目が黄色に光り、騎士みたいな姿になっていた。
「えっ……えええ!? これ、何ですか!?」
環くんが目をぱちくりさせる。
すると、海斗くんがぽつりとつぶやいた。
「驚いたね。君がSDGs騎士だったなんて」
えっ、環くんがSDGs騎士?
海斗くんと陸くんが目を合わせてうなずき合う。
「ああ、どうやらそのようだな」
「でも……環くんは人間なのに?」
私が目をぱちくりさせていると、海斗くんが教えてくれる。
「私たちが地球のネックレスに封印されていたように、環くんという人間の体に騎士の魂が封印されていたということなんだろうね」
その言葉を受け、陸くんもうなずく。
「ああ。恐らく環はこの姿からして『エネルギーをみんなに、そしてクリーンに』という目標を司るSDGs騎士だろう」
「そう……なの?」
キョトンとする私の横で、環くんが手を挙げて喜ぶ。
「よく分からないけど、僕には地球を守る力があるってこと? やったー!」
「やったー」って……環くん、本当に良いの!?
でもまあ……本人が納得してるのなら、それでいいのかな?
そんなわけで三人目の騎士もそろい、私たちはここ『地球クラブ』でSDGs騎士たちを集めて、地球を救うことになったのでした。



