齋藤葉月
「あのさ、齋藤さんにどうしても言いたいことがあって。本当に申し訳なかった、ごめん」
驚いた。まさかあの告白を深刻に受け止めて、そこまで苦しんでいたとは。そこまで苦しませていたことを知って、申し訳なく感じた。
「別に告白のことなら気にしなくてい───」
「違うよ。今日みたいな空の時、僕は、齋藤さんが嫌うようなことを言ったんだよ。覚えてないかもしれないけど。あんまり高橋のことも知らないで、嫌味を言ってしまった。あの時の齋藤さんの顔を見た時、すごく申し訳なく感じた。もう、君に嫌われたと思った。本当に、嫌なことしてごめん」
「そんな昔のことはいいよ。私のあの時は言いすぎちゃった。ごめんね。つい感情的になっちゃって」
「大丈夫。でもあの時の齋藤さんの顔を見て、嫌いになったんだなって思った。それでも自分は、齋藤さんが好きだった。告白に失敗しても齋藤さんのことが諦められなかった」
佐々木くんの顔は見えなかった。夕陽に照らされた後ろ姿だけが、私の目に映っていた。
佐々木くんが振り向いた。顔は逆光で見えていなかったが、覚悟を決めているのだけはわかった。佐々木くんの手が、身体が微妙に震えていた。
「齋藤さん」
「大丈夫?震えてるけ───」
「好きだ。僕と付き合って欲しい。ダメかもしれないけど、もう一度君に伝えたかったんだ」
また、驚かされた。まさか二回目の告白を受けるとは思わなかった。
逡巡した。正直なところ、佐々木くんのことを一回振っているという事実に、後悔を覚えている。そして、そこから気まずさも引き摺っている。
でも、もう後悔をしたくない。
佐々木くんは自分の過去と向き合って、反省して、また心を入れ替えてここに立っている。でも私は、後悔だけを引き摺って、気まずいからと、過去から目を背けてきた。
やっぱり佐々木くんは凄いと思った。心から尊敬すべき人物だと思った。そして、佐々木くんからはこれからも、学べることがたくさんあると思った。同時に、一緒にいたいと思った。
だから────
「いいよ。付き合いたい」
本音をそのまま吐露した。
多分これで後悔は無くなると思う。
佐々木悠
「え、いいの?」
「うん。いいよ」
本当に嬉しくて嬉しくて堪らなかった。齋藤さんが告白を了承してくれると、それ以前に自分の話に耳を傾けてくれると思っていなかった。
「ありがと。実は高橋のこと愚痴っちゃった後さ、高橋に謝ったんだよね。齋藤さんにも怒られたし、なんか申し訳なくて。高橋はさ、笑って許してくれたし、何ならもっと仲良くなれたんだ。」
「そうなんだ。なんかそういうところ素直だよね。好きだよ素直なところ。」
僕の頬は紅潮していたと思う。何故か同時に目頭も熱くなった。
胸の奥にじんわりと熱を帯びていた。
反射でよく見えなかったけど、佐々木くんの頬は一筋の静かな跡が光っていた。
私たちは閑散とした教室の中で、胸に残る想いを抱えたまま、ようやく重なった気持ちに照れて、静かに目を伏せていた。

