夕焼けの下で、もう一度

恋愛(学園)

夕焼けの下で、もう一度
作品番号
1771378
最終更新
2026/01/07
総文字数
6,846
ページ数
3ページ
ステータス
完結
PV数
4
いいね数
0
 
 佐々木悠にとって、齋藤葉月は「よく笑う人」だった。
 同じクラスにいて、廊下ですれ違えば軽く会釈する程度。会話らしい会話は、ほとんどしたことがない。

 それでも目に入った。
 誰かに話しかけられれば立ち止まり、困っていれば自然に手を差し伸べる。その距離感が、佐々木には少し眩しかった。

「齋藤ってさ、いい人だよな」

 前の席の男子がそう言った時、佐々木は曖昧に頷いた。
 “いい人”という言葉が、褒め言葉なのか、逃げなのか分からなかったからだ。

 ある日の放課後、教室に忘れ物を取りに戻ると、窓際に齋藤が一人で立っていた。夕焼けが差し込み、教室は静まり返っている。

「あ、えっと……忘れ物?」

 声をかけられ、佐々木は少し驚いた。
 思ったより、声が柔らかかった。

「うん。ワーク」

「そっか」

 それだけの会話。沈黙。
 気まずさをごまかすように、佐々木は口を開いた。

「……齋藤って、誰にでも優しいよね」

 言ってから、少し後悔した。
 彼女は一瞬だけ視線をこちらに向け、すぐに窓の外へ戻した。

「そう見えるだけかも」

 それ以上、話は続かなかった。
 佐々木は「変なこと言ったかな」と思いながら教室を出たが、その理由までは考えなかった。

 数日後、クラスで誰かの噂話が出た時、佐々木は軽い調子で否定的な言葉を口にした。
 その瞬間、齋藤がこちらを見た。ほんの一瞬、眉が動いた気がした。

 何も言われなかった。
 けれど、その視線だけが、なぜか心に残った。

 まだ知らない。
 彼女が、どんな言葉を大切にしているのか。
 自分の言葉が、どこまで届いてしまうのかを。

 けれど、すでにいくつかの言葉は、静かに積み重なり始めていた。
あらすじ
告白に失敗した佐々木悠は、齋藤葉月が自分のことを遠ざけた理由と向き合ってみる。齋藤に何かした記憶はない。だが過去を顧みていると、とある出来事に思い当たる。すれ違い、重なる二人の気持ちを描く、青春小説。

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