齋藤葉月
本当に驚いた。佐々木くんから告白された。
だが結果的に振ることとなってしまった。
佐々木くんのことが気になっていなかったわけじゃない。何なら好きに傾いていた。だけどあの一言を聞いた時、その熱は僅かに冷めてしまった。
もうその時は午後五時を回っていて、淡い水色からラベンダーのような紫、そして茜色へと綺麗なグラデーションが空を染めていた。
学校が終わった満足感と達成感を漂わせたまま、校門をくぐっている人もいれば、気怠そうに部活動に顔を出す人もいた。そんな様子を窓から眺めていると、佐々木くんが来た。
「やっべやっべ。忘れるところだった」
「あ、佐々木くんじゃん。忘れ物?」少し、嬉しかった。焦っている姿で少し広めの額にかく汗は、夕陽に照らされて、星のように瞬いていた。
「そうそう忘れ物。ワーク忘れるところだった。齋藤は何してんの?」
「外眺めてた。家帰っても暇だし」
本当は佐々木くんを探していた。あのどこまでも自分を謙遜して、卑下してしまうような雰囲気。自分が擁護してあげたいと思った。
「そっか。隣行っていい?」
「うん」
多分私は自分の思いが先行しすぎたあまり、佐々木くんのことを少し考えれていなかったんだと思う。
「あ、高橋くんだ。一人なのかな」
「ほんとだ。俺あの人あんま好きじゃないんだよね。なんか見栄張ってるっていうか、態度でかいっていうか。そういうの嫌なんだよ」
そういう言動が私は嫌いだった。高橋くんと佐々木くんはあまり仲良くない。
「私そういうの嫌なんだよね。偏見というか、その人のこと一面で判断する人っていうか。相手のこと少ししか知らないのに、その人全体を否定するの意味わかんないなって。佐々木くんもそういう考え方を持ってる人だったんだ。」
言い過ぎた。でも気づいた時にはもう遅かった。
「え、ごめん。嫌な気分にさせちゃってごめん」
違うの。いや違わないけど、佐々木くんを否定するつもりはないの。少し勘違いしてるって。
「じゃあまたね」
だから違うの。
でももう、遅かった。佐々木くんは私に背中を向けて、俯きながら教室を抜けた。
殺風景な教室には、佐々木くんが落とした哀愁漂う影と、寂寥感が綺麗に噛み合って、ますます私を責めているようだった。
本当はそういうつもりじゃなかった。佐々木くんが気になっていた。
でも佐々木くんのあの台詞は、少し私を嫌いに近づけてしまった。
佐々木悠
告白から数日経った。
齋藤さんは、みんなに溌剌とした癒しのような笑顔を振り撒いていた。
未練は残るどころか濃くなっていた。
何が良くなかったのか自分で考えた時、たくさんある中で一つだけ、スポットライトを照らされたように思い浮かんだ。
自分が羨ましい高橋のことを少し悪く言った時、齋藤さんに正論をぶつけられた。あの時の齋藤さんの顔は、後悔しているようにも見えたが、それよりも自分への嫌悪が勝っていた。
それが原因だと思う。もしかしたら違うかもしれないが、もう一回告白してみる価値はあると思う。
だから、メールを送信した。
(今日、教室に残ってて欲しいです。)
送った途端、不安は増加した。
また失敗するかもしれない。
それ以前に、嫌われているかもしれない。
もう自分のことは好きじゃないのかもしれない。
でも。
それでもこのまま思い出にできるほど、自分は強くない。
できる手は尽くして燃え尽きたい。
それからは、ずっと不安で不安定なまま一日を終えた。
メールの時点で断られる現実を受け止めたくなくて、メールを送ってからは携帯を開かなかった。
とうとう放課後になり、クラスメイトも同じ学級の人も、ほとんどみんな帰宅した。皮肉にもあの時のような、夕焼けだった。綺麗なグラデーションが空に掛かっていた。
「えっと、佐々木くん?急に呼び出したりして、どうしたの?」

