屋上でフラれたはずが、帰り道で溺愛されてました。

夕暮れの土手を並んでチャリを漕ぐトモスケとアタシ。

「ねえ、何でアタシたち、こうやって一緒に帰れるわけ?」
「だって、家近くなんだから当たり前だろ」

「トモスケは平気なわけ?」
「あ?ああー、俺は別に気にしてないけど」

「あんたが気にしてなくてもアタシが気にするわ」
「あまり気にするな、ドンマイ!だ」
「……それってフッたあんたが言うセリフ!?」



放課後、アタシはトモスケを屋上に呼び出し、告白した。
『屋上で告白』はアニメでアルアルのシーンだが、最近の学校では屋上を立ち入り禁止にしているところも多い。
でもアタシはその状況にどうしてもこだわりたかったので、空の観察とウソをついて職員室で屋上のドアの鍵を借りた。

「……トモスケ、あ、あんたのことが好き。カノジョにして」

こうしてアタシは、秋晴れの屋上で念願の告白を果たした。
一度やってみたかったのだ。

「え! それは無理だろ?」
トモスケはきょとんとしてそう答えた。

「ど、どうして……アタシのこと、嫌いなの?」
「いや別に嫌いじゃないけど、俺たち、ただの幼なじみじゃん」

「た、ただの?」
「そうだろ」

こんな結果は予想していなかった。
トモスケはアタシの告白を当然受け入れてくれるとばかり思っていた。

思わずアタシは屋上から走り去った。

「おい、アケ、待てよ!」

トモスケをぶっちぎって独りで帰りたかったが、そうはいかなかった。
彼は学校で一二を争う俊足なのを忘れていた。

「おい、一緒に帰るぞ」
「ほっといて!」

でも、ほっときようがなかった。
なぜならアタシとトモスケは今朝も一緒に登校して、自転車置き場にチャリを並べて停めていたから。

「ほらよ」
彼は将棋倒しになりかけているアタシのチャリを引っ張り出してくれた。

「ありがとう」
やっぱ、いつものように二人で帰るしかないのか。

「あっ、屋上の鍵、締め忘れてた……返すのも忘れてた」
「しょうがないなあ。ほれ、貸してみ」
トモスケはアタシから鍵を受け取ると瞬足で校舎に向かった。

先に帰ってしまおうか。そう思ってペダルをこぎ出そうとした瞬間、
「待ってろよ」
と玄関口からトモスケの声が響いた。



「アケ、だいたいなーお前、カタチから入りすぎるだろ」
並んでチャリを漕ぐトモスケがボソッと言った。

「え?」
「告白するなら、屋上でとか」
「……悪かったわね」

「マラソン大会近いから朝トレするぞって言ったらナイキの靴とウエア買うとか」
「……それは、お金かけて道具揃えて退路を断ちたかったからよ」
うそだ。トモスケにカッコいいとこ見せたかったからだ。

「図書館で勉強しようって誘ったら、目が悪くもないのに伊達メガネしてきたりとか」
「……気合を入れて集中したかっただけよ」
うそだ。トモスケにいつもと違うアタシの一面を見せたかったからだ。

「そういうのをカタチから入るっていうんだよ」
まあ、言われてみれば、確かにそういうところがあるかもしれない。

夕陽に照らされた堤防の自転車道路の先に、チャリを止めて立っている二人の女子がいた。
近づくと隣のクラスのマイとタケミだとわかった。
バトミントン部所属で、他校でも『マイタケ』コンビと評判らしい。

道路を塞ぐようにチャリを停めていたので、仕方なくアタシたちは彼女らの少し手前で止まった。

「マイタケか。こんなところでどうした?」トモスケが声をかける。
「私達、そう呼ばれるの好きじゃないの……キノコ嫌いだし」

ややキツメの目つきをしたタケミが答えた。彼女は続ける。
「そんなことより、トモスケ君に用事があってさ」

「じゃあ、先に帰る」アタシはペダルを漕ごうとした。
「アケ、待っててくれ」トモスケが止める。

そのやりとりを見ていたタケミが、
「ま、いっか、ただの幼なじみだし」と言った。
ズキッ! その言葉、今は禁句だぞ。

「ほら、マイ、言いなよ」
タケミに促され、マイは自転車を離れてトモスケに近寄った。

一旦彼女は下を向いたが、顔を上げ意を決したように口を開いた。
「ねえトモスケ君……私とつきあって」

「「えっ!」」

トモスケは驚く。アタシも驚いた。
一日で二人の女子に告白されるなんて、そうそうない経験だろう。

彼は、一瞬空を仰ぎ、それからアタシの顔を見て、再びマイに向き直った。
「それはできないよ……だって、俺にはアケがいるし」

「「「え!」」」

アタシ含め、女子三人が驚く。
「だ、だって……こないだ、アケのことは、ただの幼なじみだって言ってたじゃない?」
解せない、というマイの表情。

「ああ、そうだ。ただの幼なじみだからだ」

マイの表情が悔しそうにひきつる。
「トモスケ君にとって、幼なじみってどういう存在なの?」
「最高な存在さ。一番大事にしたい……だいたい言葉の響きがいいじゃないか!」
アタシは顔が赤くなるのを自分でもわかった。

そして、ここにきてようやく理解した。
トモスケにとっては『カノジョ < 幼なじみ』だったのだ。

アタシは『カノジョ』、彼は『幼なじみ』というカタチにこだわっていただけだ。
そのこだわりは捨てよう。

タケミに慰められながら、うなだれて自転車を押すマイにアタシは声をかけた。
「マイ……ドンマイ!」



夕陽を浴びながら、ペダルを漕ぐトモスケとアタシ。

「お前、普通あの場面であんなこと言うか?」
「いやー、言うでしょ普通。だって名前がマイだよ、なかなかチャンスないよ」
「どういう性格してんだよ」
「何とでも言え」

そう。
アタシ達は『ただの幼なじみ』という最強の関係なんだから。


おしまい。