麗音は腕を組み、壁にゆっくりと背中を預けた。
「だが、世間はそう見ない。」
現実を容赦なく突きつける声に、優しさや甘さは一切ない。
「映像はすでに数百万回再生されている。今さらこちらが加工の痕跡を証明したところで、一度感情に火がついた大衆の暴走は止まらない」
「……じゃあ、どうするんですか」
時雨くんがタブレットを握り直して尋ねると、麗音は前を見据えたまま、事もなげに言った。
「もっと大きな記事で、上書きするだけだ」
「……大きな記事?」
私が首を傾げると、麗音は理路整然とした口調で説明を始めた。
「最近頻発している吸血鬼の暴走事件と、今回の件。裏で糸を引いている者は同一人物だろう。暴走事件が解決しないことで、民衆のヘイトはすでに本部に向きつつある。ならば、その元凶である犯人をこちらで捕らえて世間の注目をそちらにずらした上で、すべての真相を公表する。…これが現時点で、最も合理的かつ唯一の解決策だ」
一切の感情論を排除し、状況を俯瞰した上での完璧な戦略。
これには、先ほどまで頭を抱えていた春流くんも時雨くんも、納得せざるを得ないというように顔を見合わせた。
「……確かに。犯人を捕まえて白日の下に晒せば、この映像が嫌がらせのでっち上げだっていう証明にもなりますね」
「悪い奴を捕まえました、実は映像も加工された罠でした、って流れなら……民衆も手のひらを返して納得するか」
「だが、それだけではない」
麗音は言葉を重ねると、その鋭い視線を真っ直ぐに叶兎くんへと向けた。


