「ところで、胡桃。おんぶと姫抱っこどっちがいい?」
そんな凍りついた空気を強引に切り裂くように、琥珀が唐突に突拍子もない質問を投げてきた。
「え?」
あまりに場違いな問いに、私は目を丸くする。
「歩けないでしょ、その足取りじゃ。」
あっ…そういうこと…?
確かに、今の私は目眩が酷くて、自分の力で立っているのが精一杯だけど……。
その時──。
──ザザッ……ー。
部屋の天井に設置されたスピーカーから鼓膜を震わせる耳障りなノイズが走り、全員の足がピキリと凍りついた。
『やぁ、お疲れ様。楽しいショーだったよ。』
頭上のスピーカーから響いてきたのは、のんびりとした、この緊迫した場にそぐわないほど穏やかな男の声だった。
その特徴的な不快な声に、私はハッとして恐怖に目を見開き、顔を上げる。
────間違いない。あの男の声だ。
…叶兎くんを病院の地下で攫った、あの時の。
『暴走と吸血衝動に対して、無効化能力で対抗しつつ言語的接触で鎮静化させる。……いやー素晴らしいね。論文三本は書ける。』


