正直にいえば、今の叶兎くんは、言葉も通じない、血を求めるだけの化け物のようになってしまっていて、本当に恐ろしかった。
けど、それ以上に「叶兎くんを私の手で助けたい」という強い想いと、「叶兎くんは絶対に私を裏切らない」という揺るぎない信頼が、恐怖を上回っていた。
だから今は…どうにかして、叶兎くんの理性を取り戻したい。
血の気が引いて滲む視界の中、私は震える手を伸ばし、私の肩に顔を埋める叶兎くんの頬をそっと包み込んだ。
そして、叶兎くんの身体を自分の方へと引き寄せるようにして。
私は、自分から叶兎くんの唇へと、迷わずに唇を重ねた。
触れるだけの、浅いキスじゃない。
熱い唇を割って舌をそっと差し入れ、お互いの絡み合う
息の中で、お互いの血の味が濃密に混ざり合うほどの口づけ──いつもは恥ずかしくて、自分からは一度だってしたことのないような、深くて濃厚な、愛の証明としてのキスだった。
「──んっ、…」
唇が触れ合い、互いの体温が混ざり合った瞬間、叶兎くんの大きな身体に明確な動揺が走った。
ビクリと叶兎くんの背中が跳ねる。
虚ろで濁りきっていたあの赤い瞳に、一瞬だけ、確かな正気の光が戻ったのが分かった。
今だ……!
その千載一遇の隙を逃さず、私は体内に残された最後の全力を両腕に込め、のしかかる叶兎くんの胸を突き飛ばすようにして力一杯押し返した。
ドン、と床に背中を打つ音がして、体勢が鮮やかに逆転する。
今度は私が、仰向けになった叶兎くんの身体の上に馬乗りになる形になった。


