総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ




「胡桃!!」



その時、廊下を激しく走る足音と共に、戻ってきた琥珀の声が隔離室に響き渡った。

琥珀は格子越しに、この惨状を目にして目を見開く。


壁のコンソールパネルを狂ったような速度で操作し始めるけど、バチバチと火花を散らす機械は思うように動かないらしく、忌々しげに強く舌打ちをした。



「解除方法はわかった、けど……っ。ロックの完全解除まで、あと二分はかかる!」



琥珀の視線が、私を組み敷いて血を啜る叶兎くんへと向けられた。


これ以上は猶予がないと判断したのだろう。

琥珀は迷うことなく、腰のホルスターから自分の愛用している銃を引き抜いた。



そして、その銃のグリップを下に向けて、格子の上から大きく振りかぶる。



「死にたくないなら、それ使って!!」



金属の擦れる鈍い音を立てて格子から投げ込まれた重厚な金属の塊が、床を滑って私のすぐ手元でピタリと止まった。



ハンターの標準装備。

……それは、さっき私に護身用として手渡された、威力の低い特殊弾ではない。



吸血鬼の肉体すら一撃で破壊する殺傷能力を持った、本物の「実弾」が装填された銃だった。



琥珀のいる位置から撃てば、私に当たる可能性がある。

だから、自分で撃て……という意味だろう。



……っ、でも、こんなの、撃てるわけ、ない……!



銃の扱いに慣れているハンターなら、急所を巧妙に外して相手の動きだけを止めることもできるのかもしれない。


でも、私にはそんな卓越した技術なんてない。


…何より、世界で一番大好きな叶兎くんに向けて銃口を構え、引き金を引く勇気なんて、私の心にはひとかけらも存在しなかった。