琥珀が真っ青な顔をして格子に駆け寄り、持っていた銃のグリップで狂ったように格子を叩きつける。
ガツン、ガツンと激しい音が響く。
「くそっ──っ!」
けれどその頑丈な壁は、琥珀の必死の抵抗をあざ笑うかのように、傷一つ付かずびくともしなかった。
その間、叶兎くんはの腕は逆に私を強く抱きしめ返す形になっていた。
腕が私の背中に回った瞬間、不思議と、彼の内側から伝わってくる力の質が、ほんの少しだけ変わった気がして。
あれほど荒れ狂っていた暴走の波が、凪のように一瞬だけピタリと収まる。
「……胡桃…っ」
か細いけど…ちゃんと、いつもの優しい叶兎くんの声。
額を私の肩に預けて、荒い呼吸を繰り返している。
でも、安心するには早すぎる。
叶兎くんの中の違和感は消えたわけじゃない。
きっと、私の無効化によって一時的な「時間稼ぎ」ができているだけ。
後ろの方で、格子越しに琥珀が通信機に向かって必死に叫んでいるのが聞こえた。
「赤羽叶兎を見つけた──だけど胡桃と2人が隔離された!座標送るから誰か来て!」
通信を切ると、琥珀は格子越しに私を真っ直ぐに見据えた。
「胡桃!聞いて!今から隔壁の解除コードを探し出す。……っ、三分、いや二分だけでいい! 持ちこたえて!」
「わかった……! お願い、琥珀!」
私が必死に頷きながら叫ぶと、琥珀は短く「頼んだよ!」と言い残し、背を向けて、弾かれたように部屋を飛び出していった。
廊下を走る足音が遠ざかっていく。
静まり返った冷たい隔離室。
私と叶兎くん。二人きりの、もうどこにも逃げ場のない空間。


