叶兎くんの唇が微かに動いた。
『──逃げ、て……』
その直後。
言葉を遮るように、凄まじい衝撃波が部屋全体を激しく揺らした。
同時に、頑丈な金属製の拘束具がまるでおもちゃのプラスチックみたいに粉々に弾け飛ぶ。
壁に突き刺さる金属の破片、バチバチと火花を散らす制御機械。
自由になったはずの叶兎くんは、自分の右腕をもう片方の手で掴み、必死に抑え込もうとしていた。
自分の意思とは関係なく暴れ出そうとする肉体を、必死に制御しようとしているみたいに。
「……っ、ぅ」
叶兎くんの瞳の奥で、真紅の色が一瞬、金色にチカチカと明滅した。
……っ、無効化、しないと……今すぐ!
吸血鬼の能力を打ち消す私の『無効化』の力は、対象との距離が近ければ近いほど、その純度と威力を増す。
私は恐れることなく迷わず一歩踏み込み、苦痛に激しく歪む叶兎くんの額へと両手を思い切り伸ばして触れた。
その瞬間、ドクンッ──! と私の心臓が裏返るような凄まじい衝撃。
焼けるように熱い力の奔流が指先から衣服を通して腕を伝い、濁流となって私の全身を容赦なく駆け巡る。
今まで感じたどの吸血鬼の暴走とも、まったく比較にならなかった。
桁が、次元が違いすぎる。
「…っ、強すぎる……っ」
圧力に耐えながら、必死に叶兎くんの額に触れ続けた。


