その瞬間、空気が更に重くなった。
肌の産毛がぶわっと逆立つような、本能的な恐怖を掻き立てる凄まじい威圧感。
叶兎くんの身体から漂う気配が、私の知っている普段の優しくて穏やかな彼とはまるで違っていた。
禍々しくて、圧倒的な力の塊。
琥珀がハンターとしての本能からか無意識に腰の銃のホルスターに手をかけたのが視界の端に見えて、私は琥珀に目で必死に訴えかけた。
「琥珀」
私の震える声に琥珀はハッとして、獲物を狙う鷹のようだった鋭い視線をわずかに緩めた。
腰の銃のホルスターに添えられていた指がゆっくりと離れていく。
…それは、過酷な訓練を積んできたハンターとしての癖なんだろう。
いつでも引き金が引ける絶妙な距離に指を残したまま、琥珀は私に促されるように一歩後ろへ下がった。
そして私は叶兎くんに一歩、また一歩と近づいていく。
琥珀が言った「何かをされている可能性」……
危ないかもしれない、近づいてはいけない。
そんな頭の片隅にある警告なんて、今の私にはどうでもよかった。
ただ、叶兎くんの無事を確かめたい。
近づくと、叶兎くんの首が、重力に抗うようにぐらりとゆっくり持ち上がった。
ようやく目が合う。
でも、今の彼の瞳には、いつも私を優しく映し出してくれていた温かい光がどこにもなくて。
まるで光のまったく届かない、深い深い海の底を覗き込んでいるような闇がそこには広がっていた。


