急いで白衣に袖を通すと、男性用だから私にはかなりサイズが大きくて裾も袖も余ってしまったけど、顔を伏せて歩いていれば、混乱する施設の中で研究員の一人に紛れることはできそうだった。
琥珀は奪ったカードキーを指先でくるりと器用に回してみせる。
「地下二階…隔離室。このキーで行けるはず、行こう」
私たちは部屋を飛び出し、赤い非常灯が点滅する薄暗い廊下を急いだ。
地上の陽動班が派手に暴れてくれているおかげで、通路にはほとんど人気がない。
たまに研究員とすれ違っても、この白衣と、琥珀が迷いのない足取りで先導してくれるおかげで、怪しまれることなくエレベーターに乗り込むことができた。
地下二階のボタンを押すと、箱がゆっくりと降りていく感覚に、私の心臓の鼓動も激しく重なっていく。
「胡桃。ひとつ言っておくけど」
階数表示がB1からB2に切り替わったとき、琥珀が前を見据えたまま静かに言った。
「赤羽叶兎を見つけても、すぐには近づかない方がいいよ。…何か、されてる可能性が高いから」
チン、と軽い音がして扉が開く。
琥珀の言葉が、私の胸を冷たく締め付けた。
……何かをされてる可能性。叶兎くんも、今までの吸血鬼たちと同じように……。
考えたくなかった。
でも、ここに来る前に琥珀が見つけた資料を思い出せば、最悪の事態は容易に想像できてしまう。


