「ただ……これ、ほとんど成功してない。合成した血を吸血鬼に投与して…その強すぎる力に耐えられずに投与された力に呑まれて暴走」
「じゃあ……それが、あの街で起きてた暴走事件の真実……?」
琥珀のページをめくる手が、ある一点で止まった。
「うん。事件の被害者たちの共通点……全部繋がる」
その、緊迫した会話を打ち切るように。
カツン、カツン……。
研究室の奥、硬い床が続く廊下の向こうから、明らかにこちらへ向かってくる二つ分の乾いた足音が近づいてくるのが聞こえた。
琥珀の目の色が一瞬で獲物を狙う獣のそれに変わり、素早く資料を元の場所へ滑り込ませると、腰のホルスターから音もなく銃を抜いた。
「伏せて。左の棚の影」
鋭い囁きに、私は弾かれたように彼の後に続いた。
棚の影に身を潜めて呼吸を殺す。
ドクン、ドクン、と自分の心臓の音だけがうるさいほどに響く沈黙の中で。
ギィ、と立て付けの悪いドアが軋むような小さな音を立てて開き、白衣を纏った男が二人、何事もないかのように談笑しながら中に入ってきた。
私と琥珀は棚の死角で息を潜め、背中を硬直させる。
「地上の連中、まだ暴れてんのか。警備班は何やってんだよ」
「まったくだ。それより被検体の状態はどうだ?」
「No.0ならまだ耐えてるってよ。こんだけ身体がもってる個体、初めてじゃないか? 」
男たちの言葉が耳に飛び込んできた瞬間、胸の奥が冷たく凍りついた。
被験体。No.0。…それが誰のことを指しているのか。
そのとき、ほんの一瞬の出来事だった。
棚の影から、音もなく琥珀が飛び出して、迷いのない動きで手前の男の懐へと一瞬で潜り込んだ。


