僕らが紡ぐ、不可思議な話。

(恋って、なんだろ……)
 湊には難しすぎる。今回の犯人は伊吹を想っている人、というのが風真の推理だったが、ならばその犯人は、どういう気持ちで伊吹を呪ったのだろう。
「……伊吹は、多分ですが名前呼びを好みます」
「え?」
 急にそう呟くと、坂谷は、パチパチと目を瞬く。その瞳は今度こそしっかりと湊を捉えていて、湊は言葉を続けた。
「初対面の時に、言われました。先輩呼びと敬語は無理って。じゃあどうすればいいのかって訊いたら、伊吹でいいって返ってきたんで」
「え、えと、つまり」
 ゆるゆると坂谷はテーブルに突っ伏していた身体を起き上がらせる。湊は少し唇の端を持ち上げてから、頷いた。
「坂谷先輩も、名前呼びでいいんじゃないんですか? 同学年なんですから。少なくとも、嫌がられはしないと思います」
 言い切ると、段々と坂谷の顔が赤くなってくる。それと同時に、きらきらと、瞳が輝いていった。
「そ、そっか、そうなんだあっ……」
「はい」
「……今度、呼んでみようかな」
「ふふ、頑張ってください」
 微笑むと、坂谷も「ありがと」と微笑み返してくれた。恋する乙女は可愛くなる、なんて良く聞くけど、確かに伊吹の話をする時の坂谷の顔は眩しく見える。