未来に続く、未完成な恋

週末の体育館は、平日とは少し空気が違った。
公式戦前の練習試合。
観客席には、他の部活の生徒や保護者がちらほら座っている。
「緊張するな」
アップをしながら、俺は呟いた。
「今さら?」
孝太が笑う。
「春輝、顔硬い」
「うるさい」
そう言い返しながら、
無意識に観客席を探してしまう。
――いた。
女子バスケ部のジャージを着た菜々が、
同じ部の子たちと並んで座っている。
俺に気づいたのか、
菜々は少しだけ目を見開いて、
小さく手を振った。
胸の奥が、きゅっと鳴る。
「……頑張るか」
自分に言い聞かせるように呟いた。
試合が始まる。
コートに立つと、
余計なことを考える余裕はなくなる。
ボールの感触、仲間の声、
リングの位置。
――集中しろ。
それでも、
フリースローの位置に立った瞬間、
視界の端に応援席が入る。
菜々は、
真剣な顔でこちらを見ていた。
その表情を見た瞬間、
なぜか胸が苦しくなる。
――応援される資格、俺にあるのか?
そんな考えが浮かんで、
ボールがリングに弾かれた。
「ドンマイ!」
誰かの声で我に返る。
孝太がコートの外から、
親指を立てていた。
「切り替えろ」
その目が、そう言っている気がした。
――菜々
春輝のシュートが外れた瞬間、
思わず息を呑んだ。
大丈夫かな、って。
怪我しないかな、って。
それと同時に、
自分の胸がざわついていることに気づく。
――なんで、こんなに見ちゃうんだろ。
同じ体育館にいるだけなのに、
春輝がコートに立つと、
目が離せなくなる。
隣で応援している友達が言う。
「春輝、うまいよね」
「……うん」
短く答えながら、
理由のわからない違和感を抱える。
これって、
ただの友達だから?
それとも――
考えそうになって、首を振った。
今は、
応援するだけでいい。
そう思いながら、
菜々はもう一度、春輝を見つめた。
試合は、僅差で勝った。
「ナイスゲーム!」
「おつかれ!」
コートを出ると、
一気に緊張が解ける。
そのとき、
孝太が肩を叩いてきた。
「見てたぞ」
「……何を」
「応援席」
図星で、何も言えなかった。
ロッカーで着替えを終え、
外に出ると、
女子バスケ部の集団がちょうど帰るところだった。
「春輝!」
菜々が駆け寄ってくる。
「お疲れさま。すごかったね」
その笑顔が、
今日一番眩しく見えた。
「ありがと」
それ以上、何も言えない。
「次、女子の試合もあるから」
「うん、頑張れ」
それだけのやりとり。
でも、
言葉の少なさが、
逆に胸に残る。
菜々は手を振って戻っていった。
孝太がぽつりと言う。
「応援されるの、嬉しいだろ」
「……うん」
「でもさ」
少し間を置いてから、続ける。
「それで終われない顔してる」
俺は答えなかった。
体育館の外は、
もう夕方で、
空が少しだけ赤く染まっている。
応援席とコート。
近いのに、
簡単には越えられない距離。
その距離が、
これからもっと重くなる気がして――
俺は、
まだ知らないふりをしていた。