体育館を出ると、外はすっかり夕方だった。
空はオレンジと青が混ざり合って、
昼と夜の境目みたいな色をしている。
「今日、結構疲れたな」
孝太が伸びをしながら言う。
「そりゃ、あれだけ跳んでればな」
俺が返すと、孝太は笑った。
「春輝だって走り回ってたじゃん」
その後ろを、菜々が少し遅れて歩いてくる。
「二人とも、声大きすぎ」
そう言って、くすっと笑った。
この並びが、嫌いじゃない。
むしろ、好きだ。
俺と孝太が前を歩いて、
菜々が少し後ろ。
歩幅を合わせるように、自然と速度を落とす。
「女子バスケ、どうだった?」
孝太が振り返って聞く。
「新入生多くて大変。でも楽しいよ」
「いいなぁ、青春って感じ」
「今さら何言ってんの」
菜々が笑う。
その笑顔を、横目で見てしまう。
でも、目が合わないようにすぐ前を見る。
校門を出て、
少し静かな道に入る。
昼間はうるさいこの道も、
この時間になると、
部活帰りの生徒の声がぽつぽつ聞こえるだけだ。
「ねえ」
菜々がふと思い出したように言う。
「今年も三人同じクラスでよかったね」
その言葉に、
胸がきゅっと縮まる。
「……そうだな」
孝太が即座に答える。
「なんか安心するよな」
菜々はうん、と頷いた。
「変わらない感じが」
変わらない。
その言葉が、妙に引っかかった。
本当に、何も変わらないんだろうか。
俺の気持ちは、
確実に去年とは違う。
でも、それを口にしたら、
この“変わらない感じ”は壊れてしまう。
「春輝は?」
急に名前を呼ばれて、
少しだけ驚く。
「え?」
「同じクラス、どう?」
菜々がこちらを見ている。
答えは決まっている。
決まっているはずなのに、
言葉に詰まった。
「……まあ、悪くない」
それだけ言って、視線を逸らす。
孝太がちらっと俺を見る。
何か言いたそうな顔だったけど、
結局何も言わなかった。
信号で立ち止まる。
赤信号。
三人が並んで止まる。
距離は、
触れられそうで、触れられないくらい。
「ねえ」
今度は孝太が口を開く。
「春輝さ」
嫌な予感がした。
「なに」
「お前、無理してない?」
心臓が、どくんと鳴った。
「別に」
即答だった。
孝太はそれ以上追及しなかった。
ただ、少しだけ真剣な声で言う。
「無理するときは、言えよ」
その言葉が、
やけに胸に残る。
信号が青に変わる。
「じゃあ、ここで分かれ道だね」
菜々が言った。
彼女の家は、ここから別方向だ。
「また明日」
「おつかれ」
孝太が手を振る。
「おつかれさま」
俺も、同じように言う。
菜々は少しだけ立ち止まって、
振り返った。
「二人とも、怪我しないでね」
それだけ言って、
小さく手を振って走っていく。
その背中を、
見えなくなるまで見送ってしまった。
「……なあ」
孝太が隣で言う。
「春輝」
「ん?」
「好きなんだろ」
一瞬、世界が止まった気がした。
「誰を、とは言わないけどさ」
孝太の声は、
いつもより少しだけ低かった。
俺は、笑おうとした。
でも、うまく笑えなかった。
「……言うなよ」
「言わない」
孝太はすぐ答えた。
「ただ」
少し間を置いてから、続ける。
「そのままにしてるの、しんどそうだから」
何も返せなかった。
夜風が、少し冷たい。
俺はポケットに手を突っ込んで、
前を見たまま歩いた。
この気持ちは、
まだ言葉にしてはいけない。
でも――
もう、なかったことにもできなかった。
夕暮れの道を歩きながら、
俺は初めて、
この恋が“始まってしまった”ことを
はっきりと自覚していた。
空はオレンジと青が混ざり合って、
昼と夜の境目みたいな色をしている。
「今日、結構疲れたな」
孝太が伸びをしながら言う。
「そりゃ、あれだけ跳んでればな」
俺が返すと、孝太は笑った。
「春輝だって走り回ってたじゃん」
その後ろを、菜々が少し遅れて歩いてくる。
「二人とも、声大きすぎ」
そう言って、くすっと笑った。
この並びが、嫌いじゃない。
むしろ、好きだ。
俺と孝太が前を歩いて、
菜々が少し後ろ。
歩幅を合わせるように、自然と速度を落とす。
「女子バスケ、どうだった?」
孝太が振り返って聞く。
「新入生多くて大変。でも楽しいよ」
「いいなぁ、青春って感じ」
「今さら何言ってんの」
菜々が笑う。
その笑顔を、横目で見てしまう。
でも、目が合わないようにすぐ前を見る。
校門を出て、
少し静かな道に入る。
昼間はうるさいこの道も、
この時間になると、
部活帰りの生徒の声がぽつぽつ聞こえるだけだ。
「ねえ」
菜々がふと思い出したように言う。
「今年も三人同じクラスでよかったね」
その言葉に、
胸がきゅっと縮まる。
「……そうだな」
孝太が即座に答える。
「なんか安心するよな」
菜々はうん、と頷いた。
「変わらない感じが」
変わらない。
その言葉が、妙に引っかかった。
本当に、何も変わらないんだろうか。
俺の気持ちは、
確実に去年とは違う。
でも、それを口にしたら、
この“変わらない感じ”は壊れてしまう。
「春輝は?」
急に名前を呼ばれて、
少しだけ驚く。
「え?」
「同じクラス、どう?」
菜々がこちらを見ている。
答えは決まっている。
決まっているはずなのに、
言葉に詰まった。
「……まあ、悪くない」
それだけ言って、視線を逸らす。
孝太がちらっと俺を見る。
何か言いたそうな顔だったけど、
結局何も言わなかった。
信号で立ち止まる。
赤信号。
三人が並んで止まる。
距離は、
触れられそうで、触れられないくらい。
「ねえ」
今度は孝太が口を開く。
「春輝さ」
嫌な予感がした。
「なに」
「お前、無理してない?」
心臓が、どくんと鳴った。
「別に」
即答だった。
孝太はそれ以上追及しなかった。
ただ、少しだけ真剣な声で言う。
「無理するときは、言えよ」
その言葉が、
やけに胸に残る。
信号が青に変わる。
「じゃあ、ここで分かれ道だね」
菜々が言った。
彼女の家は、ここから別方向だ。
「また明日」
「おつかれ」
孝太が手を振る。
「おつかれさま」
俺も、同じように言う。
菜々は少しだけ立ち止まって、
振り返った。
「二人とも、怪我しないでね」
それだけ言って、
小さく手を振って走っていく。
その背中を、
見えなくなるまで見送ってしまった。
「……なあ」
孝太が隣で言う。
「春輝」
「ん?」
「好きなんだろ」
一瞬、世界が止まった気がした。
「誰を、とは言わないけどさ」
孝太の声は、
いつもより少しだけ低かった。
俺は、笑おうとした。
でも、うまく笑えなかった。
「……言うなよ」
「言わない」
孝太はすぐ答えた。
「ただ」
少し間を置いてから、続ける。
「そのままにしてるの、しんどそうだから」
何も返せなかった。
夜風が、少し冷たい。
俺はポケットに手を突っ込んで、
前を見たまま歩いた。
この気持ちは、
まだ言葉にしてはいけない。
でも――
もう、なかったことにもできなかった。
夕暮れの道を歩きながら、
俺は初めて、
この恋が“始まってしまった”ことを
はっきりと自覚していた。


