未来に続く、未完成な恋

ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。
この物語は、特別な事件が起きる話ではありません。
大きな事故も、劇的な告白も、人生を変えるような出来事も、ほとんど描いていません。
それでも書きたかったのは、「高校生活の中にある小さな変化」です。
春輝、菜々、孝太の三人は、最初から仲が良かったわけではありません。
同じクラスになっただけの、ただの“同級生”でした。
でも、同じ校舎で、同じ時間を過ごして、同じ季節を見ていくうちに、
気づかないほど少しずつ距離が縮まっていきます。
高校生活って、実際にはドラマみたいに分かりやすくはありません。
「今日から親友」と決まる瞬間もないし、
「この日から好きになった」と言い切れる日もほとんどないと思います。
ただ、
気づいたら隣にいる人が変わらなくなっていたり、
帰り道が自然と一緒になっていたり、
話さない日があると少し落ち着かなかったり――
そういう、名前のつかない関係が生まれていきます。
この物語で一番描きたかったのは、まさにそこでした。
菜々は、バスケにまっすぐな子です。
上手いわけでも、才能があるわけでもない。
でも、「続けたい」と思う気持ちだけは誰よりも強い。
部活って、楽しいだけじゃないですよね。
むしろ、うまくいかない日の方が多い。
シュートが入らない日、走りたくない日、周りと比べてしまう日。
それでも体育館に来てしまうのは、上手くなりたいからというより、
“やめたくない理由がある”からだと思います。
菜々にとってそれは、バスケそのものでもあり、
そして――誰かと同じ場所に立っていたい、という気持ちでした。
春輝は、あまり自分のことを話さないタイプです。
優しいわけでも、冷たいわけでもない。
でも、気づけばそばにいる。
彼は「何かを変えよう」としているわけではありません。
ただ、逃げないだけです。
誰かが頑張っているときに笑わないこと。
上手くいかないときに、余計な言葉を言わないこと。
それは派手ではないけれど、実はとても大事な優しさです。
菜々が体育館に残る理由のひとつが、
春輝が“そこにいるかもしれない”という安心感だったように、
春輝にとっても、菜々は日常の一部になっていきます。
恋かどうかは、最後まではっきりさせませんでした。
なぜなら、高校生の気持ちは、そんなに簡単に名前がつかないと思うからです。
孝太は、この物語の“空気”の役割です。
二人の間にある、言葉にできないものを壊さず、
でも重くなりすぎないようにしてくれる存在。
三人でいる時間は、特別なイベントではなく、
コンビニに寄ったり、くだらない話をしたり、
帰り道を歩くだけです。
けれど、あとから思い出すのは、
文化祭の日や大会の結果よりも、
そういう何でもない時間だったりします。
高校生活の記憶って、たぶん“出来事”ではなく
“空気”として残るものだからです。
最後のシーンを、はっきりした結末にしなかったのは理由があります。
この物語は「終わり」の話ではなく、
“途中”の話だからです。
三人の関係がどうなるのか、
恋になるのか、離れていくのか、
それはこの先の季節の中でゆっくり変わっていくはずです。
春は始まりの季節ですが、同時に、
何も決まっていない季節でもあります。
未来が分からないままでも、
同じ体育館に集まって、
同じ夕方を過ごして、
また明日も学校に行く。
それだけで十分、物語は続いていく――
そんな終わり方にしたかったのです。
もしこの物語を読み終えたあと、
自分の学校の帰り道や、部活の体育館や、
夕方の校舎を少し思い出したなら、
それが一番うれしいです。
ここまで読んでくれて、ありがとうございました。
この物語はここで区切りですが、
三人の春は、まだ続いています。