未来に続く、未完成な恋

大会当日。
体育館には、
朝から人が集まっていた。
応援の声、
シューズの音、
ボールが床に弾む音。
何度も経験してきたはずなのに、
今日は少し違う。
理由は、
わかっている。
観客席の一番端に、
菜々が座っているからだ。
足の包帯はまだ外れていない。
試合には出られない。
それでも、
ユニフォームを膝の上に置いて、
コートを見ていた。
目が合う。
菜々が、
小さく手を振る。
俺も、
軽く頷いた。
それだけで、
不思議と落ち着いた。
試合が始まる。
仲間の声が響く。
パスが繋がる。
リングが近づく。
プレーに集中しながらも、
ふとした瞬間に思う。
――前までの俺は、
――何を怖がってたんだろう。
失うこと。
壊れること。
変わってしまうこと。
でも、
何も言わなかった時間の方が、
ずっと苦しかった。
シュートを放つ。
ボールは、
リングを通り抜けた。
歓声が上がる。
思わず、
観客席を見る。
菜々が、
誰よりも嬉しそうに笑っていた。
その笑顔を見た瞬間、
胸の奥に、
静かに確信が生まれる。
――ああ、
――これでよかったんだ。
試合は、
僅差で勝った。
握手を交わし、
整列して礼をする。
体育館の空気が、
少しだけ柔らぐ。
外に出ると、
春の風が吹いていた。
「春輝」
振り返ると、
菜々が立っていた。
松葉杖をついて、
少し歩きにくそうにしながら、
それでもこっちへ来る。
「無理するな」
思わず言うと、
菜々は笑う。
「見たかったから」
少し照れたように、
続ける。
「ちゃんと、
 頑張ってるところ」
言葉に詰まる。
代わりに、
小さく息を吐いた。
「ありがとう」
短い沈黙。
でも、
前みたいな気まずさはない。
隣に立つ距離が、
自然になっていた。
「ねえ、春輝」
「ん?」
「これからさ」
少しだけ空を見上げて、
菜々が言う。
「いろいろ変わってくよね」
進級。
大会。
部活の引退。
進路。
同じ毎日は、
きっと続かない。
「……うん」
「それでも」
菜々は、
少しだけ笑った。
「また、
 同じ春を思い出せたらいいね」
その言葉の意味を、
すぐには聞き返さなかった。
未来の約束じゃない。
永遠の保証でもない。
ただ、
“覚えていたい時間”の話だと
わかったから。
「そうだな」
並んで歩き出す。
校門までの道。
前にも通った道。
でも今は、
少しだけ違って見える。
終わりじゃない。
完成でもない。
この先、
どうなるかはまだ分からない。
離れる日も、
すれ違う日も、
来るかもしれない。
それでも――
あの春、
言葉にしたことだけは、
きっと消えない。
風が、
桜の花びらを運んでくる。
俺たちは立ち止まり、
少しだけ空を見上げた。
季節は進んでいく。
それでも、
この瞬間は、
確かにここにあった。
物語は、
終わらない。
ただ、
ここから先は――
俺たちの未来になる。