未来に続く、未完成な恋

校門の前。
菜々の背中は、
少しずつ遠ざかっていく。
呼べば届く距離なのに、
声が出ない。
そのときだった。
体育館の方から、
慌ただしい足音が近づいてくる。
「春輝!」
振り返ると、
孝太が走ってきた。
息を切らしながら、
俺の腕を掴む。
「菜々、怪我した」
頭が真っ白になる。
「え?」
「練習終わりに、
 着地失敗して」
それだけ聞いて、
足が勝手に動いた。
考えるより先に、
走っていた。
保健室。
扉の前で、
足が止まる。
中から、
先生の声と、
小さな返事が聞こえる。
ノックをする。
「どうぞ」
入ると、
ベッドに座る菜々がいた。
足に包帯。
でも、
顔は平気なふりをしている。
「春輝」
目が合った瞬間、
胸が締めつけられる。
「大丈夫か」
やっと出た言葉は、
それだけ。
菜々は笑う。
「ちょっとひねっただけ」
強がりだと、
すぐわかる。
手が、
震えている。
俺は、
ベッドの横に立ったまま、
何も言えなくなる。
沈黙の中、
時計の音だけが響く。
「なんで来たの?」
菜々が、
静かに聞いた。
責めているわけじゃない。
ただ、
知りたいみたいな声。
答えは、
簡単だった。
「心配だから」
やっと、
本音が出た。
菜々の目が、
わずかに揺れる。
「……友達として?」
胸の奥で、
何かが崩れる音がした。
もう、
逃げられない。
逃げたら、
きっと一生後悔する。
「違う」
自分でも驚くくらい、
はっきり言えた。
「友達だからじゃない」
菜々の呼吸が、
止まる。
「俺、
 菜々のこと好きだ」
言ってしまった。
ずっと避けて、
守ったつもりだった言葉。
それは、
こんなにも簡単に出るのに、
こんなにも怖かった。
菜々は、
何も言わない。
ただ、
目に涙がにじむ。
「遅いよ…」
小さく、
笑うみたいに言う。
「でも」
涙を拭いて、
続ける。
「嬉しい」
その一言で、
胸が熱くなる。
廊下に出ると、
夕方の光が差していた。
未来がどうなるかなんて、
まだわからない。
大会もある。
怪我もある。
これからも、
きっと簡単じゃない。
でも今、
確かなことが一つある。
俺は、
逃げなかった。
あの背中を、
追いかけた。
春は終わらない。
まだ、
ここから続いていく。
未完成のまま、
未来へ。