未来に続く、未完成な恋

大会が近づいていた。
体育館の空気は、
いつもより張りつめていて、
でもどこか高揚している。
男子バスケ部も、
女子バスケ部も、
放課後は同じ場所に集まる。
――同じ場所。
――同じ音。
それなのに、
感じ方だけが、
前と違っていた。
アップをしながら、
俺は無意識に、
女子バスケのコートを見る。
菜々は、
真剣な顔でボールを追っている。
声を出して、
指示を出して、
チームを引っ張っている。
その姿は、
少し前と変わらない。
でも、
俺を見ることはなかった。
目が合いそうになっても、
自然に逸らされる。
それがもう、
“避けられている”んだと
はっきりわかるくらいには。
休憩中。
ベンチに座って、
タオルで顔を拭く。
孝太が、
隣に腰を下ろした。
「なあ」
「……何」
「菜々さ」
その名前を聞くだけで、
胸が反応する。
「もう、
 春輝を見てない」
責める声じゃなかった。
ただ、
事実を言う声。
「……そうだな」
「それでいいのか?」
問いかけられて、
言葉に詰まる。
よくない。
たぶん、
全然よくない。
でも、
今さら何を言えばいい?
「俺さ」
ぽつりと、
本音が落ちた。
「今さら追いかけたら、
 ずるい気がする」
孝太は、
少しだけ驚いた顔をした。
「ずるい?」
「避けたのは俺だ」
視線を落とす。
「なのに、
 失いそうになったら
 手を伸ばすのって……」
孝太は、
少し考えてから言った。
「それでも、
 伸ばさないよりはマシだ」
その言葉が、
胸に残る。
練習終わり。
片付けをしていると、
菜々が後輩と話しながら、
近くを通った。
すれ違う。
距離は、
ほんの数十センチ。
それでも、
声をかけられない。
菜々は、
俺を見なかった。
いや、
見ないようにしていた。
それが、
一番つらかった。
帰り道。
一人で歩きながら、
考える。
このまま、
何も言わずに終わったら。
たぶん、
時間が経てば、
ちゃんと忘れる。
笑える日も来る。
でも――
きっと、
春になるたびに思い出す。
あのとき、
言わなかったことを。
言えなかったんじゃない。
言わなかったことを。
校門を出たところで、
ふと足が止まる。
前を歩く、
菜々の背中が見えた。
追いつける距離。
呼べる距離。
でも、
呼んだらもう戻れない。
この先にあるのが、
何なのかはわからない。
それでも。
俺は、
一歩、踏み出した。