DNA鑑定の結果を待つまでもなく、
勇気の中に芽生えた「確信」は、これまでの執着をまったく別の形へと変えていた。
あの日以来、勇気は仕事の合間を縫って、驚くほど頻繁に帰宅するようになった。
それは、萌香を監視するためではない。
明らかに――蓮の顔を見るためだった。
「……勇気さん、それは?」
リビングに入った萌香は、思わず足を止めた。
ソファの上には、最新式の超精密ドローンや、山のような知育玩具。
それを広げているのは、紛れもなくエリート警視・高畑勇気だった。
「蓮が、飛ぶものに興味を示していた」
淡々とした口調だが、どこか得意げだ。
「公安の機材よりは性能が落ちるが……子どもの遊び相手には十分だろう」
「性能の問題じゃないわ……それに、これ対象年齢が……」
「細かいことは気にするな」
勇気はそう言って、当然のように蓮を自分の膝の上に乗せた。
かつて“付録”だと突き放していたとは思えないほど自然な動作だった。
「いいか、蓮。このレバーをゆっくり――そうだ」
低い声が、どこか優しい。
「……筋がいいな」
ぽつりと、誇らしげに付け加える。
「俺の息子なら、当然だが」
「わあ! すごい! おじちゃん、じょうず!」
「……“おじちゃん”じゃない」
勇気は少しだけ眉をひそめる。
「パパ、だ」
「……ぱぱ?」
「そうだ」
照れを隠すように短く答える勇気に、萌香の胸がきゅっと締めつけられた。
夕食後、さらに萌香を驚かせる出来事が起こる。
風呂上がりの蓮をバスタオルで包み、
勇気が慣れない手つきでその小さな体を抱き上げたのだ。
「俺が寝かしつける」
「え……? でも、勇気さんにそんなこと……」
「……父親の役目を、奪うな」
少し拗ねたような言い方。
萌香は何も言えず、ただ頷いた。
寝室のドア越しにそっと覗くと、
勇気が蓮に絵本を読み聞かせている。
普段は六法全書を読み上げるような厳格な声が、
いつの間にか、穏やかで柔らかな調べに変わっていた。
蓮が勇気の大きな手を握りしめ、
安心しきった寝息を立て始める。
勇気はその小さな額に、そっと唇を落とした。
(……あんな顔、私にも見せなかったのに)
胸に、ちくりとした痛みが走る。
憎いはずの男。
嘘のプロポーズで自分を裏切ったはずの男。
それでも――
子どもを慈しむその背中を見ていると、
凍りついていた心が、少しずつ溶かされていく。
寝室を出た勇気と、廊下で鉢合わせる。
彼は萌香に気づくと、ふっと表情を和らげ、
乱暴ではない力で、彼女を壁際へと導いた。
包み込むような距離。
逃げ場を塞ぐのではなく、守るための距離。
「……蓮は、俺にそっくりだ」
低く、どこか嬉しそうに言う。
「驚くほどにな」
「……ええ」
「こんな宝物を隠して逃げた罪は、確かに重い」
そう前置きしてから、声を落とす。
「だが……あの子を一人で、ここまで真っ直ぐに育ててくれたことには、感謝している」
勇気の大きな手が、萌香の頬を優しくなぞった。
「萌香。もう一度言う」
視線を逸らさず、はっきりと。
「便宜上の妻じゃない。
俺の――本物の妻になれ」
額を寄せ、低く囁く。
「今度は、俺のすべてを賭けて誓う。
お前と、蓮を守ると」
二年前よりも、ずっと重く、ずっと甘い言葉。
信じてはいけないと分かっているのに。
勇気の瞳に宿る真摯な光に、
萌香の決意は、音もなく揺らぎ始めていた。
勇気の中に芽生えた「確信」は、これまでの執着をまったく別の形へと変えていた。
あの日以来、勇気は仕事の合間を縫って、驚くほど頻繁に帰宅するようになった。
それは、萌香を監視するためではない。
明らかに――蓮の顔を見るためだった。
「……勇気さん、それは?」
リビングに入った萌香は、思わず足を止めた。
ソファの上には、最新式の超精密ドローンや、山のような知育玩具。
それを広げているのは、紛れもなくエリート警視・高畑勇気だった。
「蓮が、飛ぶものに興味を示していた」
淡々とした口調だが、どこか得意げだ。
「公安の機材よりは性能が落ちるが……子どもの遊び相手には十分だろう」
「性能の問題じゃないわ……それに、これ対象年齢が……」
「細かいことは気にするな」
勇気はそう言って、当然のように蓮を自分の膝の上に乗せた。
かつて“付録”だと突き放していたとは思えないほど自然な動作だった。
「いいか、蓮。このレバーをゆっくり――そうだ」
低い声が、どこか優しい。
「……筋がいいな」
ぽつりと、誇らしげに付け加える。
「俺の息子なら、当然だが」
「わあ! すごい! おじちゃん、じょうず!」
「……“おじちゃん”じゃない」
勇気は少しだけ眉をひそめる。
「パパ、だ」
「……ぱぱ?」
「そうだ」
照れを隠すように短く答える勇気に、萌香の胸がきゅっと締めつけられた。
夕食後、さらに萌香を驚かせる出来事が起こる。
風呂上がりの蓮をバスタオルで包み、
勇気が慣れない手つきでその小さな体を抱き上げたのだ。
「俺が寝かしつける」
「え……? でも、勇気さんにそんなこと……」
「……父親の役目を、奪うな」
少し拗ねたような言い方。
萌香は何も言えず、ただ頷いた。
寝室のドア越しにそっと覗くと、
勇気が蓮に絵本を読み聞かせている。
普段は六法全書を読み上げるような厳格な声が、
いつの間にか、穏やかで柔らかな調べに変わっていた。
蓮が勇気の大きな手を握りしめ、
安心しきった寝息を立て始める。
勇気はその小さな額に、そっと唇を落とした。
(……あんな顔、私にも見せなかったのに)
胸に、ちくりとした痛みが走る。
憎いはずの男。
嘘のプロポーズで自分を裏切ったはずの男。
それでも――
子どもを慈しむその背中を見ていると、
凍りついていた心が、少しずつ溶かされていく。
寝室を出た勇気と、廊下で鉢合わせる。
彼は萌香に気づくと、ふっと表情を和らげ、
乱暴ではない力で、彼女を壁際へと導いた。
包み込むような距離。
逃げ場を塞ぐのではなく、守るための距離。
「……蓮は、俺にそっくりだ」
低く、どこか嬉しそうに言う。
「驚くほどにな」
「……ええ」
「こんな宝物を隠して逃げた罪は、確かに重い」
そう前置きしてから、声を落とす。
「だが……あの子を一人で、ここまで真っ直ぐに育ててくれたことには、感謝している」
勇気の大きな手が、萌香の頬を優しくなぞった。
「萌香。もう一度言う」
視線を逸らさず、はっきりと。
「便宜上の妻じゃない。
俺の――本物の妻になれ」
額を寄せ、低く囁く。
「今度は、俺のすべてを賭けて誓う。
お前と、蓮を守ると」
二年前よりも、ずっと重く、ずっと甘い言葉。
信じてはいけないと分かっているのに。
勇気の瞳に宿る真摯な光に、
萌香の決意は、音もなく揺らぎ始めていた。

