彼女たちは、ワクワクした表情で自分の指示を待っている。
その期待に、応えなければならない。
レオンは、ふぅ……と大きくため息をついた。
キュッと唇を結び、もう一度スキルに意識を集中する。
だが、いつまで経っても何の反応もない。
空っぽの井戸を覗き込んでいるような、虚しい感覚だけが残った。
こういう肝心な時に発動してくれないのだとしたら、【運命鑑定】をいったいどうやって使えばいいのか。
レオンはキュッと口を結んだ。
(……仕方ない)
教えてもらえないなら、自分の判断で選ぶしかない。
エリナとシエルには実戦経験を。
ルナには魔力制御の訓練を。
ミーシャには状況判断力を鍛える機会を。
それぞれの成長に繋がる依頼を、慎重に選ばなければ。
「ねえ、これなんてどう?」
待ちきれなくなったルナが、一枚の羊皮紙を指差した。
『街道のゴブリン退治』
報酬は金貨三枚。
ゴブリンの群れが街道沿いに出没し、旅人を襲っているのを解決してほしいという依頼だ。
新人パーティの初依頼としては、確かに堅実な選択だろう。
危険すぎず、かといって簡単すぎもしない。
全員が実戦を経験できるし、報酬も悪くない。
「そ、そうだね……。 いいかもしれな――」
その時だった。
バァァァン!!と、突然二階から轟音が響いた。
全員の視線が、一斉に上を向く。
執務室の扉が乱暴に開け放たれ、一人の男が飛び出してきた。
年季の入った刀傷が幾筋も走る強面のギルドマスターだ。
歴戦の冒険者として数々の修羅場をくぐり抜けてきた、この街の守護者。
その男が、死人のように青ざめていた。
手すりに両手をつき、ホールを見下ろすその目に宿っているのは、紛れもない恐怖だった。
「一同、注目せよ!!」
その声は、ギルドホール全体を震わせた。
喧騒が、一瞬で消え失せる。
冒険者たちが、凍りついたように動きを止めた。
「魔物の大群が、街に接近している!」
ギルドマスターの深刻な声に、息を呑む音があちこちから聞こえた。
「スタンピードの発生だ!!」
その言葉が落ちた瞬間、ギルドホールが大きくどよめいた。
スタンピード。
それは、冒険者にとって死の代名詞。
何かの原因で魔物が集団で発狂し、理性を失い、ただひたすら人間の街を目指して突き進む。
そして、全てを喰らい尽くす。
最悪の、災厄。
過去の記録では、スタンピードによって滅んだ街は数知れない。
万を超える魔物の群れが、まるで黒い津波のように押し寄せ、建物を破壊し、人々を蹂躙し、全てを無に帰す。
「誰か! ストーンウォール砦に援軍を!」
ギルドマスターの声が、悲鳴のように響いた。
ストーンウォール砦。
この街の防衛線として建設された、最後の砦。
そこが突破されれば、街までには何もない。
十万の命が、無防備に晒される。
「報酬は弾む! 頼む、誰か――」
だが、誰も動かない。
冒険者たちは、床を見つめていた。
息を殺し、存在を消そうとしている。
視線を合わせまいと、必死に目を逸らしているのだ。
当然だ。
万を超える魔物の群れを相手に、冒険者パーティがどうこうできるはずがない。
それは、英雄譚の中でしか起こらない奇跡だ。
現実の冒険者は、そんな無謀な賭けには出ない。生き延びることこそが、最大の勝利なのだから。
「……頼む」
ギルドマスターの声が、か細くなっていく。
「この街を……救ってくれ……」
懇願は、沈黙に飲み込まれた。
死の霧が、ギルドを包み込んでいく。
誰も顔を上げず、押し黙ったままだった。
ただ重苦しい沈黙だけが、ホールを支配する。
(……さすがに、これは無理だ)
レオンも、首を横に振る。
いくら【運命鑑定】があるとはいえ、スタンピードは次元が違う。
万の魔物を、たった五人で相手にできるはずがない。
ここは、逃げるべきだ。
街から離れ、安全な場所に避難する。
それが、最も合理的な選択だ。
だがその瞬間、視界が突然黄金に染まった。
まるで、太陽が目の前で爆発したかのような、眩い光――。
【運命分岐点:少女覚醒】
金色に輝く運命の選択肢が、宙に浮かび上がった。
【ストーンウォール死守】
【推奨行動:直ちに向かう】
【報酬:金貨五百枚、少女たちの真の覚醒】
【警告:この選択を逃せば、十万人が死ぬ】
「へっ……!?」
レオンの背筋を冷たい汗が流れ落ち、心臓が激しく脈打った。
その期待に、応えなければならない。
レオンは、ふぅ……と大きくため息をついた。
キュッと唇を結び、もう一度スキルに意識を集中する。
だが、いつまで経っても何の反応もない。
空っぽの井戸を覗き込んでいるような、虚しい感覚だけが残った。
こういう肝心な時に発動してくれないのだとしたら、【運命鑑定】をいったいどうやって使えばいいのか。
レオンはキュッと口を結んだ。
(……仕方ない)
教えてもらえないなら、自分の判断で選ぶしかない。
エリナとシエルには実戦経験を。
ルナには魔力制御の訓練を。
ミーシャには状況判断力を鍛える機会を。
それぞれの成長に繋がる依頼を、慎重に選ばなければ。
「ねえ、これなんてどう?」
待ちきれなくなったルナが、一枚の羊皮紙を指差した。
『街道のゴブリン退治』
報酬は金貨三枚。
ゴブリンの群れが街道沿いに出没し、旅人を襲っているのを解決してほしいという依頼だ。
新人パーティの初依頼としては、確かに堅実な選択だろう。
危険すぎず、かといって簡単すぎもしない。
全員が実戦を経験できるし、報酬も悪くない。
「そ、そうだね……。 いいかもしれな――」
その時だった。
バァァァン!!と、突然二階から轟音が響いた。
全員の視線が、一斉に上を向く。
執務室の扉が乱暴に開け放たれ、一人の男が飛び出してきた。
年季の入った刀傷が幾筋も走る強面のギルドマスターだ。
歴戦の冒険者として数々の修羅場をくぐり抜けてきた、この街の守護者。
その男が、死人のように青ざめていた。
手すりに両手をつき、ホールを見下ろすその目に宿っているのは、紛れもない恐怖だった。
「一同、注目せよ!!」
その声は、ギルドホール全体を震わせた。
喧騒が、一瞬で消え失せる。
冒険者たちが、凍りついたように動きを止めた。
「魔物の大群が、街に接近している!」
ギルドマスターの深刻な声に、息を呑む音があちこちから聞こえた。
「スタンピードの発生だ!!」
その言葉が落ちた瞬間、ギルドホールが大きくどよめいた。
スタンピード。
それは、冒険者にとって死の代名詞。
何かの原因で魔物が集団で発狂し、理性を失い、ただひたすら人間の街を目指して突き進む。
そして、全てを喰らい尽くす。
最悪の、災厄。
過去の記録では、スタンピードによって滅んだ街は数知れない。
万を超える魔物の群れが、まるで黒い津波のように押し寄せ、建物を破壊し、人々を蹂躙し、全てを無に帰す。
「誰か! ストーンウォール砦に援軍を!」
ギルドマスターの声が、悲鳴のように響いた。
ストーンウォール砦。
この街の防衛線として建設された、最後の砦。
そこが突破されれば、街までには何もない。
十万の命が、無防備に晒される。
「報酬は弾む! 頼む、誰か――」
だが、誰も動かない。
冒険者たちは、床を見つめていた。
息を殺し、存在を消そうとしている。
視線を合わせまいと、必死に目を逸らしているのだ。
当然だ。
万を超える魔物の群れを相手に、冒険者パーティがどうこうできるはずがない。
それは、英雄譚の中でしか起こらない奇跡だ。
現実の冒険者は、そんな無謀な賭けには出ない。生き延びることこそが、最大の勝利なのだから。
「……頼む」
ギルドマスターの声が、か細くなっていく。
「この街を……救ってくれ……」
懇願は、沈黙に飲み込まれた。
死の霧が、ギルドを包み込んでいく。
誰も顔を上げず、押し黙ったままだった。
ただ重苦しい沈黙だけが、ホールを支配する。
(……さすがに、これは無理だ)
レオンも、首を横に振る。
いくら【運命鑑定】があるとはいえ、スタンピードは次元が違う。
万の魔物を、たった五人で相手にできるはずがない。
ここは、逃げるべきだ。
街から離れ、安全な場所に避難する。
それが、最も合理的な選択だ。
だがその瞬間、視界が突然黄金に染まった。
まるで、太陽が目の前で爆発したかのような、眩い光――。
【運命分岐点:少女覚醒】
金色に輝く運命の選択肢が、宙に浮かび上がった。
【ストーンウォール死守】
【推奨行動:直ちに向かう】
【報酬:金貨五百枚、少女たちの真の覚醒】
【警告:この選択を逃せば、十万人が死ぬ】
「へっ……!?」
レオンの背筋を冷たい汗が流れ落ち、心臓が激しく脈打った。



