「ありがとうございます」
 折れたヒールを受け取り、とりあえず履いてみる。
 当然カクンと低くなり、とても歩ける状態ではなかった。

 やっぱりコンビニでいつものサラダチキンを買って帰ればよかった。
 馬鹿すぎる自分の行動に、呆れを通り越してもう笑うしかない。

「カニだろ?」
「え? どうして」
 男性の手にはカニとマグロの短冊。

「この時間にここに来る人たちは、1000円以上のものはあまり手をつけない」
 だから熾烈な戦いが終わってからでも間に合うことが多いと説明された綾香の顔は一気に赤く染まった。

「……そうなのね」
 何も知らず挑みに行った自分が恥ずかしい。

「助けてくれてありがとう」
 綾香はカニを受け取りながら、男性にお礼を伝えた。

 今となっては、このカニがどうしてあんなに欲しかったのかわからないくらい、気分は落ち込んでいる。
 このまま食べることができるのかさえわからないカニを買って帰って、どうしようと思っていたのだろうか。
 料理なんてまったくできないのに。

「家はどこ?」
 その靴では歩けないだろうと、靴を指刺された綾香は目を伏せる。
 
「ここから歩いて15分くらい」
 そうか。この靴で歩いて帰るんだ。
 本当に今日の行動は馬鹿みたいだと綾香は自嘲した。