悠斗は、いつもの時間にマンションを出て、近所のスーパーに向かっていた。
今週で、二人が作ったすべての料理を再現し終える。
今日最後の写真をUPしたらSNSも閉じようと決めていた。
もう見ていないかもしれないと思いながらも続けたこの行為は、懺悔と彼女への愛のメッセージを込めたもの。
連絡先がわからない綾香との唯一の繋がりだった。
「これで、終わりか……」
悠斗は、少し重い足取りでスーパーの鮮魚コーナーへ。
「……来るわけないか」
諦めにも似た言葉が、悠斗の口からこぼれた。
「悠斗さんっ!」
聞き慣れた、けれどもう聞くことができないと諦めた懐かしい声が背後から響く。
「綾……香?」
綾香は周囲の視線も気にせず、悠斗に向かって走り出した。
もう靴はピンヒールではない。
髪もばっさり切り、服もスーツの鎧ではなく普段着だ。
あの頃より少し痩せたようだが、悠斗は腕を広げながら綾香をしっかりと受け止めてくれた。
「ごめんなさい」
勝手に身を引いて、ひとりで絶望した馬鹿な自分。
「ごめん綾香。業務命令だからとずっと連絡しなかった最低な俺を許してくれ」
魚の匂いがするスーパーの中で、二人は強く抱きしめ合う。
ここはスーパーの鮮魚コーナー。
そしてもう間もなく戦闘開始となるはずの静まり返った戦場だ。
「なんか、ドラマの撮影か?」
客のひとりの声で、綾香と悠斗はハッと我に返る。
恥ずかしさよりも、もう離れたくない気持ちの方が強すぎて、綾香はなかなか悠斗から離れることができなかった。
「もうすぐ半額だよ~」
鮮魚コーナーのおじさんの声が店内に響く。
「悠斗さん、今日の食材は?」
悠斗から漂う匂いは、石鹸とコーヒー豆のような清潔で生活感のある匂い。
ホッとするいい匂いに包まれた綾香は、幸せを噛み締めながら悠斗に尋ねた。
「イカに決まっているだろう」
最終日のメニューはイカとブロッコリーのパスタだ。
「そうだと思った」
綾香と悠斗は手をしっかり握り、顔を見合わせながら笑った。
鮮魚コーナーにベルの音が響き渡る。
魚に夢中な人々の後ろで悠斗は綾香の唇に優しく、そして深くキスをした。
真っ赤な顔で見上げる綾香の耳元で悠斗は囁く。
『これから毎日、一緒に』
二人の新しい毎日は、ここから始まる――。
END
今週で、二人が作ったすべての料理を再現し終える。
今日最後の写真をUPしたらSNSも閉じようと決めていた。
もう見ていないかもしれないと思いながらも続けたこの行為は、懺悔と彼女への愛のメッセージを込めたもの。
連絡先がわからない綾香との唯一の繋がりだった。
「これで、終わりか……」
悠斗は、少し重い足取りでスーパーの鮮魚コーナーへ。
「……来るわけないか」
諦めにも似た言葉が、悠斗の口からこぼれた。
「悠斗さんっ!」
聞き慣れた、けれどもう聞くことができないと諦めた懐かしい声が背後から響く。
「綾……香?」
綾香は周囲の視線も気にせず、悠斗に向かって走り出した。
もう靴はピンヒールではない。
髪もばっさり切り、服もスーツの鎧ではなく普段着だ。
あの頃より少し痩せたようだが、悠斗は腕を広げながら綾香をしっかりと受け止めてくれた。
「ごめんなさい」
勝手に身を引いて、ひとりで絶望した馬鹿な自分。
「ごめん綾香。業務命令だからとずっと連絡しなかった最低な俺を許してくれ」
魚の匂いがするスーパーの中で、二人は強く抱きしめ合う。
ここはスーパーの鮮魚コーナー。
そしてもう間もなく戦闘開始となるはずの静まり返った戦場だ。
「なんか、ドラマの撮影か?」
客のひとりの声で、綾香と悠斗はハッと我に返る。
恥ずかしさよりも、もう離れたくない気持ちの方が強すぎて、綾香はなかなか悠斗から離れることができなかった。
「もうすぐ半額だよ~」
鮮魚コーナーのおじさんの声が店内に響く。
「悠斗さん、今日の食材は?」
悠斗から漂う匂いは、石鹸とコーヒー豆のような清潔で生活感のある匂い。
ホッとするいい匂いに包まれた綾香は、幸せを噛み締めながら悠斗に尋ねた。
「イカに決まっているだろう」
最終日のメニューはイカとブロッコリーのパスタだ。
「そうだと思った」
綾香と悠斗は手をしっかり握り、顔を見合わせながら笑った。
鮮魚コーナーにベルの音が響き渡る。
魚に夢中な人々の後ろで悠斗は綾香の唇に優しく、そして深くキスをした。
真っ赤な顔で見上げる綾香の耳元で悠斗は囁く。
『これから毎日、一緒に』
二人の新しい毎日は、ここから始まる――。
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