自動ドアをくぐった瞬間、冷たいオフィスとは全く違う、生ぬるく、生活の匂いが混ざった空気に包まれる。
 店内はオリジナルソングのBGM。

「これおいしそう」
 綾香はお湯を注ぐだけで作ることができる豚汁をまずカゴに入れた。

「お惣菜は……こっち?」
 天井から吊り下げられた案内表示を頼りに綾香は進む。
 お惣菜コーナーへ向かうと、その先の鮮魚ケースの前に年齢も性別もバラバラな人々が集まっている姿が見えた。

「なにかあるのかな?」
 まるで獲物を待つハンターのように視線は一点に集中している。

 鮮魚ケースの前には、切り身だけでなく、刺身パック、マグロの短冊、エビ、カニが並んでいた。

「あと5分で半額だよ~!」
 白いエプロンに長靴の魚屋が、半額シールを見せながら客にアピールする。

「おじさん、どれでも半額なの?」
「そうだよ、この1万円のカニも早い者勝ちだよ」
 おじさんは8時になったらこのシールを順番に貼っていくと、得意げに綾香に説明してくれた。

 負けられない。
 
 謎の闘志が綾香に湧いてくる。
 「安さ」ではなく、「半額でカニという非日常を手に入れた達成感」が欲しい。
 
 綾香は周りを見渡した。