報告書は無事に上司の許可をもらうことができ、綾香は大きな達成感を胸に悠斗に完成した資料を見せた。
 綾香は目を輝かながら、独自の切り口でまとめたデータと企画の概要を説明する。

「綾香に頼んでよかったよ」
 スーツ姿の悠斗に褒められた綾香は、仕事中だというのに真っ赤な顔で微笑んだ。

「ターゲット層をあまり変えることなく、新ジャンルとまでいかないが、うちがまだチャレンジしたことがない新企画」
「ノウハウが使えた方がいいと思って、別ジャンルはやめたの」
「すごくいいよ」
 想像以上だと悠斗はべた褒めしてくれる。

「すぐに企画を進めるよ」
 悠斗は綾香にありがとうと極上の笑顔で微笑んだ。

 仕事も順調、恋も順調。
 このまま悠斗の仕事がうまくいって、ゲームが大ヒットになり、デートをする暇もなくなったらどうしようなんて妄想を繰り広げるくらい、綾香は浮かれていた。
 
 先週と先々週は悠斗が忙しく、夜8時のデートはお預け。
 やっと今週、久しぶりに会えると思っていたのに――。

「……え? 企画が中止?」
 上司に呼ばれて会議室に入った綾香は、先日悠斗に出した市場調査の分析結果をもとにした提案書とそっくりな企画書を見ながら震えた。
 
「ターゲット層も狙い目のジャンルも、完全に一致している。後追いでは勝負にならないからこの企画は中止だと、先方から連絡が来た」
 上司に見せられた企画書は、悠斗の会社ではない別会社の名前。
 それなのに、資料の見せ方は違うが内容はほぼ同じ。
 そして、別会社の方には、もうゲームのタイトルまで記入されている。

「……どうして?」
 綾香は頭が真っ白になった。
 この資料を見せたのは、悠斗と資料作成を手伝ってくれた野々山、そして今目の前にいる上司だけなのに……。