披露宴が始まった。
新郎新婦の入場、ウェルカムスピーチ――そして乾杯の音頭が響くと、会場全体が一気に華やぎ、グラスが軽やかに触れ合う音が広がった。
「優花、乾杯!」
「美咲、健太、おめでとう!」
優花も心から二人を祝福し、シャンパンの泡が喉を軽く通り抜けるのを感じながら微笑んだ。
テーブルでは料理が運ばれ、友人たちとの会話も自然と弾む。
けれど優花は、向かい側のテーブル――宏樹のいる席を、時折そっと盗み見ずにはいられなかった。
宏樹のテーブルは、男性陣を中心に活気に満ちている。
笑い声、肩を叩き合う仕草、シャンパンのグラス。
その明るい輪の中にいる宏樹は、まさしく“クラスの中心だった頃の彼”の面影を残していた。
一方、優花のテーブルは女子中心。
自然と近況報告や恋愛の話題へ移っていく。
「優花はさ、最近どうなの? 仕事忙しそうだけど……恋人とかできた?」
恵理が小声で覗き込む。
「なかなかね。仕事は楽しいけど、出会いがなくて」
「えー、優花絶対モテるよ!」
優花は笑って返すものの、胸の奥では
――“モテる相手が宏樹じゃなかったら意味がないのに”
そんな言葉がふとよぎり、そっと胸の奥にしまい込んだ。
その時だった。
向かい側のテーブルで、男性たちの声が少し大きくなった。
自然と耳がそちらへ向かってしまう。
「……で、宏樹のプロジェクトどうなったんだよ? 年末までに終わらせるって言ってたろ?」
健太(友人)の声だ。
宏樹の名前に、優花の心がひきつれる。
「ああ、あれは先月、なんとか山場は越えたよ。まあ、かなり無理したけどな」
宏樹の声は、以前より落ち着き、少しだけ疲れを含んでいるように聞こえた。
「相変わらずだな、お前。仕事に入れ込みすぎだろ」
「まあね。でも、やりがいある仕事だから」
そう言い、彼はグラスを傾ける。
優花は彼の“今”の輪郭が、少しずつ鮮明になるのを感じていた。
責任のある仕事を任され、努力して、自分の道をまっすぐ進んでいる。
――それは、優花が憧れた“誠実な彼”そのものだった。
だが、次の健太の言葉が、優花の心の表面を静かに揺らした。
「そういや宏樹。最近彼女できたって話、あれ本当?」
フォークを持つ手が止まった。
周囲の友人たちの声は遠い雑音になり、
宏樹の返事だけを、心がひたすら待っていた。
向かい側のテーブルが、一瞬だけ静まる。
「……なんだよ、いきなり」
宏樹は笑ったようにも聞こえた。
「まあ、そういう噂も流れるよな」
肯定でも否定でもない。
その曖昧さが、逆に優花の胸を締めつけた。
(そうだよね……いても不思議じゃない)
慌てて気持ちを切り替えようとしたとき、
「ねぇ聞いてよ優花。うちの上司がさ……」
恵理が話しかけ、優花は反射的に相槌を打つ。
けれど、耳はどうしても宏樹のテーブルの小さな音を拾ってしまう。
男性陣の話題はすぐに別の方向へ移った。
なのに優花の心の中では、宏樹の
「まあ、そういう噂も流れるよな」
という言葉が、何度も何度もリフレインする。
(大丈夫、落ち着いて……私は私で楽しむんだ)
優花は運ばれてきた温かいスープをゆっくり口に運ぶ。
その優しい味が、どこか胸のざわめきをそっと包んでくれるようだった。
片思いの相手の恋愛事情は、再会の場で最も突き刺さる“試練”。
曖昧な返答に揺れながらも、優花は披露宴の華やかな景色に視線を向けた。
祝福の場は続き、優花は小さく息を整えた。
――今日だけは、きれいに笑っていたい。
新郎新婦の入場、ウェルカムスピーチ――そして乾杯の音頭が響くと、会場全体が一気に華やぎ、グラスが軽やかに触れ合う音が広がった。
「優花、乾杯!」
「美咲、健太、おめでとう!」
優花も心から二人を祝福し、シャンパンの泡が喉を軽く通り抜けるのを感じながら微笑んだ。
テーブルでは料理が運ばれ、友人たちとの会話も自然と弾む。
けれど優花は、向かい側のテーブル――宏樹のいる席を、時折そっと盗み見ずにはいられなかった。
宏樹のテーブルは、男性陣を中心に活気に満ちている。
笑い声、肩を叩き合う仕草、シャンパンのグラス。
その明るい輪の中にいる宏樹は、まさしく“クラスの中心だった頃の彼”の面影を残していた。
一方、優花のテーブルは女子中心。
自然と近況報告や恋愛の話題へ移っていく。
「優花はさ、最近どうなの? 仕事忙しそうだけど……恋人とかできた?」
恵理が小声で覗き込む。
「なかなかね。仕事は楽しいけど、出会いがなくて」
「えー、優花絶対モテるよ!」
優花は笑って返すものの、胸の奥では
――“モテる相手が宏樹じゃなかったら意味がないのに”
そんな言葉がふとよぎり、そっと胸の奥にしまい込んだ。
その時だった。
向かい側のテーブルで、男性たちの声が少し大きくなった。
自然と耳がそちらへ向かってしまう。
「……で、宏樹のプロジェクトどうなったんだよ? 年末までに終わらせるって言ってたろ?」
健太(友人)の声だ。
宏樹の名前に、優花の心がひきつれる。
「ああ、あれは先月、なんとか山場は越えたよ。まあ、かなり無理したけどな」
宏樹の声は、以前より落ち着き、少しだけ疲れを含んでいるように聞こえた。
「相変わらずだな、お前。仕事に入れ込みすぎだろ」
「まあね。でも、やりがいある仕事だから」
そう言い、彼はグラスを傾ける。
優花は彼の“今”の輪郭が、少しずつ鮮明になるのを感じていた。
責任のある仕事を任され、努力して、自分の道をまっすぐ進んでいる。
――それは、優花が憧れた“誠実な彼”そのものだった。
だが、次の健太の言葉が、優花の心の表面を静かに揺らした。
「そういや宏樹。最近彼女できたって話、あれ本当?」
フォークを持つ手が止まった。
周囲の友人たちの声は遠い雑音になり、
宏樹の返事だけを、心がひたすら待っていた。
向かい側のテーブルが、一瞬だけ静まる。
「……なんだよ、いきなり」
宏樹は笑ったようにも聞こえた。
「まあ、そういう噂も流れるよな」
肯定でも否定でもない。
その曖昧さが、逆に優花の胸を締めつけた。
(そうだよね……いても不思議じゃない)
慌てて気持ちを切り替えようとしたとき、
「ねぇ聞いてよ優花。うちの上司がさ……」
恵理が話しかけ、優花は反射的に相槌を打つ。
けれど、耳はどうしても宏樹のテーブルの小さな音を拾ってしまう。
男性陣の話題はすぐに別の方向へ移った。
なのに優花の心の中では、宏樹の
「まあ、そういう噂も流れるよな」
という言葉が、何度も何度もリフレインする。
(大丈夫、落ち着いて……私は私で楽しむんだ)
優花は運ばれてきた温かいスープをゆっくり口に運ぶ。
その優しい味が、どこか胸のざわめきをそっと包んでくれるようだった。
片思いの相手の恋愛事情は、再会の場で最も突き刺さる“試練”。
曖昧な返答に揺れながらも、優花は披露宴の華やかな景色に視線を向けた。
祝福の場は続き、優花は小さく息を整えた。
――今日だけは、きれいに笑っていたい。

