夜景の話、そして結婚観の話で心の距離を縮めたまま、二人は気づけば駅前に立っていた。
改札口の前で足が止まり、周囲の喧騒が遠のく。深夜の駅は静かで、二人の声だけがはっきりと響いた。
「今日は……本当にありがとうございました。こんなに本格的に夜景を撮ったの、初めてで。宏樹さんのおかげで、カメラがもっと好きになりました」
優花がそう言うと、宏樹は優花の肩にかかるストールへ視線を落とし、穏やかに微笑んだ。
「喜んでもらえてよかった。ストール、ちゃんと温かかった? 寒い中、長く付き合わせちゃって……それに、仕事の愚痴まで聞かせて、ごめん」
「とんでもないです。話してもらえて、むしろ嬉しかったです。
宏樹さんがあんなに頑張っているのを知って、私も頑張ろうって思えました」
どうしても伝えたかった“エール”。
優花が真っ直ぐに言葉を贈ると、宏樹の表情はわずかに引き締まり、そして安堵したようにゆるんだ。
「……ありがとう。相沢のその言葉、明日からの活力になるよ」
しばらく無言のまま見つめ合う。
その沈黙が、どんな会話よりも温かかった。
やがて宏樹は、何か思い出したようにリュックへ手を伸ばし、小さな物を取り出した。
夜景をモチーフにした、シンプルで上質なキーホルダー。
「これ……よかったら持っていてくれないか。今日は、君に“心の安らぎ”をもらったお礼に」
「……いいんですか? 本当に。大切にします」
優花は両手でそっと受け取った。
冷たい金属の感触が胸の奥まで染み込んでいく。
「もちろん。それと──もう一つだけ」
宏樹は、少し息を吸い、優花の瞳をまっすぐに捉えた。
「また、すぐに会えるかな。この夜景の続き……相沢と一緒に撮りたい」
胸の奥で音が跳ねた。
ただの“また連絡する”ではなく、具体的な“また二人で”という願いが込められた言葉だった。
「はい。私も……すごく、楽しみにしています」
優花が笑顔を返すと、宏樹の目元もやわらかくほころんだ。
「よかった。じゃあ、次の日程はまたメッセージするよ。家に着いたら連絡する」
「はい」
名残惜しそうに頷き合い、二人はゆっくりと改札へ向かう。
離れていく距離が、もどかしいほど愛おしかった。
改札を抜け、振り返るたびに宏樹も同じように振り返っている。
最後の姿が見えなくなるまで、優花は立ち尽くした。
手の中には、あたたかい重みを持つキーホルダー。
それは五年越しの想いが、憧れから“現実の繋がり”へ変わった証だった。
(次の連絡……早く来ないかな)
満たされた心を抱え、優花は春の夜道をゆっくりと歩き出した。
改札口の前で足が止まり、周囲の喧騒が遠のく。深夜の駅は静かで、二人の声だけがはっきりと響いた。
「今日は……本当にありがとうございました。こんなに本格的に夜景を撮ったの、初めてで。宏樹さんのおかげで、カメラがもっと好きになりました」
優花がそう言うと、宏樹は優花の肩にかかるストールへ視線を落とし、穏やかに微笑んだ。
「喜んでもらえてよかった。ストール、ちゃんと温かかった? 寒い中、長く付き合わせちゃって……それに、仕事の愚痴まで聞かせて、ごめん」
「とんでもないです。話してもらえて、むしろ嬉しかったです。
宏樹さんがあんなに頑張っているのを知って、私も頑張ろうって思えました」
どうしても伝えたかった“エール”。
優花が真っ直ぐに言葉を贈ると、宏樹の表情はわずかに引き締まり、そして安堵したようにゆるんだ。
「……ありがとう。相沢のその言葉、明日からの活力になるよ」
しばらく無言のまま見つめ合う。
その沈黙が、どんな会話よりも温かかった。
やがて宏樹は、何か思い出したようにリュックへ手を伸ばし、小さな物を取り出した。
夜景をモチーフにした、シンプルで上質なキーホルダー。
「これ……よかったら持っていてくれないか。今日は、君に“心の安らぎ”をもらったお礼に」
「……いいんですか? 本当に。大切にします」
優花は両手でそっと受け取った。
冷たい金属の感触が胸の奥まで染み込んでいく。
「もちろん。それと──もう一つだけ」
宏樹は、少し息を吸い、優花の瞳をまっすぐに捉えた。
「また、すぐに会えるかな。この夜景の続き……相沢と一緒に撮りたい」
胸の奥で音が跳ねた。
ただの“また連絡する”ではなく、具体的な“また二人で”という願いが込められた言葉だった。
「はい。私も……すごく、楽しみにしています」
優花が笑顔を返すと、宏樹の目元もやわらかくほころんだ。
「よかった。じゃあ、次の日程はまたメッセージするよ。家に着いたら連絡する」
「はい」
名残惜しそうに頷き合い、二人はゆっくりと改札へ向かう。
離れていく距離が、もどかしいほど愛おしかった。
改札を抜け、振り返るたびに宏樹も同じように振り返っている。
最後の姿が見えなくなるまで、優花は立ち尽くした。
手の中には、あたたかい重みを持つキーホルダー。
それは五年越しの想いが、憧れから“現実の繋がり”へ変わった証だった。
(次の連絡……早く来ないかな)
満たされた心を抱え、優花は春の夜道をゆっくりと歩き出した。

