ビンゴゲームは、怒涛のような熱狂のうちに幕を閉じた。
結局、宏樹が気にしていたヘッドフォンは、美咲の会社の同僚の手に渡り、会場から大きなどよめきが上がった。
「残念でしたね」と優花が笑いかけると、
宏樹は肩をすくめ、少しだけ悔しそうに目を細めて言った。
「まあ、運ってそういうもんだよな。でも——欲しいものは、運じゃなくて自分で手に入れたほうが嬉しいしね」
そう言って優しく笑う横顔に、優花の胸はまた静かに温まった。
「相沢は何か欲しい景品あった?」
「私は……特に。でも、宏樹と話せたことが、今日の一番の景品です」
少し照れながら言った言葉に、宏樹はふと動きを止め、
優花をまっすぐ見つめた。
「……そう言ってもらえると、すごく嬉しいよ」
その笑顔は、照れでも社交辞令でもなかった。
優花は、確かに心の奥の柔らかい部分に触れたような手応えを感じた。
やがて二次会は終わりを告げ、
新郎新婦の挨拶を合図に、会場は余韻を残しつつ解散へと向かった。
優花が恵理と淳子の元へ戻ると、恵理がにやにやと肘をつついてくる。
「優花、あの感じ……絶対なにかあったでしょ?」
「なにもないってば。ただ、いろいろ話しただけ……」
そう否定しながらも、胸の奥で何かが甘く鳴っていた。
出口へ向かう途中、
タクシー乗り場へ歩く男性陣の中に宏樹の姿を見つけた。
優花は気づかれまいと深呼吸し、勇気を振り絞って彼に近づく。
「宏樹、今日はありがとうございました。美咲たち、すごく幸せそうでしたね」
「うん……ほんとに。
それに——相沢とゆっくり話せたの、すごく楽しかった。ありがとう」
健太が「宏樹、タクシー来たぞー!」と手を振って呼ぶ。
乗り込む前、宏樹は一瞬だけ足を止めた。
街灯の光が、彼の自信ある横顔をやわらかく照らす。
「また連絡するよ。
……夜景、撮りに行こう」
その声は、優花だけに届くような深さを帯びていた。
優花は言葉を失いそうになりながら、
それでもしっかりと頷いた。
「……はい。楽しみにしています」
車が走り去っていくテールランプが、夜のしじまに吸い込まれていく。
優花は、その光が見えなくなるまで、ただ静かに立っていた。
⸻
「さ、帰ろ。今度は三人でも飲もうよ、優花!」
恵理の声に我に返り、友人たちと駅へ歩き出す。
だが、優花の胸の奥は静かに熱を帯び続けていた。
「また連絡する」——それは、曖昧さのない、はっきりとした約束。
次は、二人きりで。
夜景を、隣で。」
優花が歩く夜道は、
まるで新しい物語へ続く、光の筋を描いているように見えた。
五年前、届かないと思っていた恋ではなく、
“今”の二人が向き合う未来への道。
優花は気づいていた。
(ここが——私と宏樹の、最初の“夜の交差点”。)
そして、もう迷わない。
その交差点の先へ、歩いていくと決めたのだ。
結局、宏樹が気にしていたヘッドフォンは、美咲の会社の同僚の手に渡り、会場から大きなどよめきが上がった。
「残念でしたね」と優花が笑いかけると、
宏樹は肩をすくめ、少しだけ悔しそうに目を細めて言った。
「まあ、運ってそういうもんだよな。でも——欲しいものは、運じゃなくて自分で手に入れたほうが嬉しいしね」
そう言って優しく笑う横顔に、優花の胸はまた静かに温まった。
「相沢は何か欲しい景品あった?」
「私は……特に。でも、宏樹と話せたことが、今日の一番の景品です」
少し照れながら言った言葉に、宏樹はふと動きを止め、
優花をまっすぐ見つめた。
「……そう言ってもらえると、すごく嬉しいよ」
その笑顔は、照れでも社交辞令でもなかった。
優花は、確かに心の奥の柔らかい部分に触れたような手応えを感じた。
やがて二次会は終わりを告げ、
新郎新婦の挨拶を合図に、会場は余韻を残しつつ解散へと向かった。
優花が恵理と淳子の元へ戻ると、恵理がにやにやと肘をつついてくる。
「優花、あの感じ……絶対なにかあったでしょ?」
「なにもないってば。ただ、いろいろ話しただけ……」
そう否定しながらも、胸の奥で何かが甘く鳴っていた。
出口へ向かう途中、
タクシー乗り場へ歩く男性陣の中に宏樹の姿を見つけた。
優花は気づかれまいと深呼吸し、勇気を振り絞って彼に近づく。
「宏樹、今日はありがとうございました。美咲たち、すごく幸せそうでしたね」
「うん……ほんとに。
それに——相沢とゆっくり話せたの、すごく楽しかった。ありがとう」
健太が「宏樹、タクシー来たぞー!」と手を振って呼ぶ。
乗り込む前、宏樹は一瞬だけ足を止めた。
街灯の光が、彼の自信ある横顔をやわらかく照らす。
「また連絡するよ。
……夜景、撮りに行こう」
その声は、優花だけに届くような深さを帯びていた。
優花は言葉を失いそうになりながら、
それでもしっかりと頷いた。
「……はい。楽しみにしています」
車が走り去っていくテールランプが、夜のしじまに吸い込まれていく。
優花は、その光が見えなくなるまで、ただ静かに立っていた。
⸻
「さ、帰ろ。今度は三人でも飲もうよ、優花!」
恵理の声に我に返り、友人たちと駅へ歩き出す。
だが、優花の胸の奥は静かに熱を帯び続けていた。
「また連絡する」——それは、曖昧さのない、はっきりとした約束。
次は、二人きりで。
夜景を、隣で。」
優花が歩く夜道は、
まるで新しい物語へ続く、光の筋を描いているように見えた。
五年前、届かないと思っていた恋ではなく、
“今”の二人が向き合う未来への道。
優花は気づいていた。
(ここが——私と宏樹の、最初の“夜の交差点”。)
そして、もう迷わない。
その交差点の先へ、歩いていくと決めたのだ。

