結婚式まで、あと一週間。
優花は、空いた時間を見つけてはドレス選びに没頭していた。手持ちのワンピースで済ませることもできたが、鏡の前で何度も試着を繰り返すうちに――どうしても“今の自分”をきちんと表現できる一着を選びたい、そんな思いが強くなっていった。

「宏樹に会うから、じゃない」

そう呟き、首を振る。
これは美咲の晴れの日にふさわしい自分でいたいだけ。
そして、数年ぶりに会う友人たちには、社会人として充実した日々を送っている自分を見せたい――そんなささやかな自尊心もあった。

最終的に優花が選んだのは、深いネイビーのロングドレス。シンプルで華美さはないが、落ち着いた大人の女性らしさを自然に引き出してくれる一着だった。アクセサリーは控えめなパールで統一し、品よくまとめる。

結婚式前日。
クローゼットを開け、ハンガーにかけたドレスとアクセサリーを見つめる。
完璧だ。必要なものはすべて揃った。
あとは、明日“最高の自分”でその場に立つだけ。

――しかし、夜。
ベッドに入った途端、押し込めていた不安が静かに胸へせり上がってきた。

(もし、宏樹に彼女がいたら?)

五年もの間、彼はきっと素敵な大人の男性として日々を過ごしてきた。
隣に親しげな女性がいるとしても、おかしくはない。
その時、自分は本当に笑って「おめでとう」と言えるのだろうか。

(もし、向こうが私のことを覚えていなかったら……)

それも充分あり得る。
宏樹にとって優花は、たくさんいた同級生の一人に過ぎないのかもしれない。

優花はゆっくりと深呼吸し、胸のざわつきを静める。

(そうだ。どんな結果になっても、美咲と健太の門出を祝うこと。それが一番大切なこと)

そして――もし宏樹に会えたなら、今度は優花の方から声をかけよう。
昔のように俯いたままではなく、きちんと顔を上げて、「久しぶり」と言おう。

そう決めた瞬間、張りつめていた緊張が、ほんの少しだけ期待へと形を変えた。
明日の再会は、過去の自分にけじめをつけるための、大切な儀式なのだ。

夜が深まり、優花は静かに目を閉じた。
やがて眠りに落ちると、夢の中には――高校の廊下で、遠くから優花に手を振る、懐かしい宏樹の姿が現れた。