軽快な音楽とともに、スタッフが各テーブルにビンゴカードを配り終える。
会場のあちこちから笑い声が弾け、
「よし当てるぞー!」「景品なんだ!?」と盛り上がる声が響き渡る。

優花はカードを膝の上に置き、数字の並びをぼんやりと眺めた。

(落ち着け、ちゃんと呼吸して…)

さきほどの宏樹との会話が胸の奥で熱を放ち続けていて、
優花はまだ現実に戻り切れていなかった。

そんな優花の様子を、
宏樹は静かに横から覗き込んだ。

「相沢、どんな並び? 当たりそう?」

彼が身を寄せた瞬間、
宏樹の肩が優花の肩に、軽く触れた。

一瞬。

だけど、その温度は驚くほど鮮明だった。

「ひゃっ……あ、えっと……全然まだ揃いません」

優花は慌てて言葉を繋ぐ。
彼の体温が、耳まで熱を届ける。

宏樹は小さく笑い、
わざとらしくない自然な動作で、
優花のカードに視線を落とす。

「俺もまだだな。
 でも、こういうのって最後の方が当たるんだよな」

並んでカードを見るその姿は、
外から見れば恋人そのものだった。

会場がざわめき、司会者が声を張る。

「では最初の番号いきます!
 ……31番!」

「ないな」
「私もです」

二人は同時に首を振って笑い合う。

――その笑顔の重なり方が、もう昔の友人ではなかった。

続いて番号が呼ばれ、会場は一喜一憂する。
しかし優花と宏樹は、誰よりも穏やかな空気を纏っていた。

3つめの番号が読み上げられたとき。

「あ、あった。これで一列の半分だ」
宏樹が嬉しそうに優花の肩に軽く触れて示した。

自然すぎるその動きに、
優花は心臓を抑えることができなかった。

(だめ……いちいち反応してたら…)

でも、抑えようとしても抑えきれない。

宏樹は気づいているのか、気づいていないのか――
ふと優しく囁くように言った。

「今日はよく当ててほしいな。
 ……相沢が喜ぶ顔、もっと見たいから」

優花は一瞬、言葉を失った。

彼は冗談っぽく言ったのかもしれない。
でも、その声音はどこか真剣だった。

鼓動が速くなる。
カクテルのせいではない。

(こんなの……期待してしまう)

しかし、その時。

「おーい! 宏樹、ビール追加で頼んでくれー!」

どこかのテーブルから友人の声が飛ぶ。

宏樹は一瞬だけ顔を上げたが、すぐに優花に向き直った。

「……後でいいって言っといて。今、こっち優先」

軽く微笑んでそう言うと、
彼はまた優花のカードに視線を戻した。

たったそれだけの言葉で、
優花の胸の奥は一気に熱を帯びた。

(“今、こっち優先”…?)

優花に向けられたその肯定は、
ビンゴの景品よりもずっと特別なものだった。

司会者が次の番号を読み上げる。

「……22番!」

「きた」
「わ、私も!」

二人は同時に印をつけ、
さっきよりもずっと近い距離で顔を見合わせた。

そして――
二人だけの小さな熱は、確かに深まっていった。