招待状が届いてから三日後の夜。
仕事を終えて帰宅した優花がスマートフォンを開くと、通知が絶え間なく鳴り続けていた。
画面には、懐かしい高校時代のグループLINE名が表示されている。

【チーム美咲を祝う会】

美咲が、招待状を送ったことを全員に報告したのだ。

美咲: みんな、招待状届いたかな?♡ 返信待ってるよ! 久しぶりに集まれるの、ほんと楽しみ!

その直後、ムードメーカーの健太がスタンプを連投する。

健太: もちろん出席! てか、もう5年かよw 時の流れこわ。

恵理: 健太は昔から中身変わってないでしょ!
恵理: 優花はもう返事した? ドレスどうする〜?

すでに返信ハガキを投函し終えている優花は、
このまま会話に加わると“宏樹の件を意識してる”と思われそうな予感に、指が止まる。

(既読無視はまずい…でも今入るのはタイミング悪い? …いや、考えすぎでしょ私)

悩んだ末、優花は無難で短い一文を送る。

優花: 美咲、本当におめでとう! 招待状ありがとう、もちろん出席するよ。ドレスはこれから探すところ!

そのメッセージを送った“直後”だった。
ずっと沈黙していた、一人の名前がふいに画面に現れる。

宏樹: 俺も出席するよ。美咲、おめでとう。

スマホが手から滑り落ちそうになった。

(宏樹……)

変わらない。あの頃と同じ、飾り気のない短い文。
けれど、その一言だけで胸の奥に沈めていた感情が一斉に波立つ。

──宏樹の出席が、正式に確定した。

健太: おっ、宏樹も来る! 久々に飲もうぜ! 相変わらず仕事忙しいの?

宏樹: まあ、それなりに。健太は変わらず元気そうだな。

恵理: 二人とも久しぶりすぎ! 当日楽しみだね〜!

画面には、かつての空気がそのまま蘇っていた。
優花はやり取りを追いながら、高校時代の彼を思い出す。

宏樹は、グループの中心ではない。
けれど誰よりも落ち着いていて、言葉に不思議な説得力があった。
だから優花は、彼に話しかけることなく、ただ“静かに見つめるだけ”の三年間を過ごした。

(また、あの頃みたいに…遠くから見て終わっちゃうのかな)

それだけは避けたい。
恋をどうこうするつもりはない。
ただ、大人になった自分として、彼と穏やかに会話をしたい。
それが、あの頃の自分へのけじめになる気がしていた。

すると、美咲から個別のメッセージが飛んできた。

美咲(個人): 優花、宏樹が来るって聞いて緊張してるでしょ〜?w

優花(個人): なんでわかるの!?(ドキッ)

美咲(個人): ふふ、優花のことはお見通し! でも安心して。みんな大人になってるし、宏樹、最近前より落ち着いたけどやっぱ優しいよ〜。

無邪気な励ましに、張り詰めていた心がふっと緩む。
美咲は、優花の片思いには全く気づいていない。
だからこその、真っ直ぐな言葉だった。

優花は深呼吸をし、気持ちを整える。

(そうだ…これは美咲の結婚式。友人たちと笑って過ごす日。)

五年越しに再会する彼は、きっともう“特別な存在”ではない。
そう言い聞かせるように、スマホを伏せる。

鏡の中には、あの頃より少し大人になった自分が映っていた。
その姿に、優花はそっと微笑む。