「……色々思い出してくるな」
宏樹がそう言い終えた直後、会場の照明がふっと暗くなり、お色直し再入場のテーマ曲が流れ始めた。
ざわついていた空気が引き締まり、ゲストたちが一斉に扉の方を見る。
「ああ、もう時間か」
宏樹が、ほんの少し名残惜しそうに席を立つ。
「また、後で」
優花も立ち上がり、笑顔で応じた。
その笑みは自然で、どこか柔らかくて、自分でも驚くほど落ち着いていた。
宏樹は頷き、テーブルから離れようとした。
そのとき――
彼の視線が、優花の席の横に置かれたメッセージカードにふと留まった。
それは、新郎新婦へ自由に書き込むために用意された小さなカード。
優花は、その空白に美咲への想いを丁寧に綴っていた。
「……これ、相沢が書いたんだ?」
許可を求める間もなく、自然な動作でカードを手に取り、目を通し始める。
優花は一瞬だけ戸惑った。
他人に“心の内側”を読まれるのは、どこかくすぐったいような気恥ずかしさがある。
だが、宏樹が真剣に文章を追うその表情を見て、言葉を差し挟むことができなかった。
数行のメッセージ――
けれど、そこには美咲との長い友情、感謝、そして心からの祝福が詰まっている。
宏樹は静かに読み進め、読み終えると、そっとカードを元の場所に戻した。
「……相沢らしい。すごく、優しいメッセージだ」
その声は、決して社交辞令ではない。
文章の奥にある優花の気持ちを、そのまま受け取った人の声だった。
「美咲は、相沢にこうやって祝ってもらえて、本当に嬉しいと思うよ」
優花は、不意に胸の奥が熱くなる。
(……読まれたのに、嫌じゃない)
むしろ、自分の“大切にしてきた気持ち”を丁寧に扱われたようで、くすぐったいほど誇らしかった。
宏樹は少し視線を落とし、それからふと顔を上げて真っ直ぐに言った。
「優花は……誰に対しても、本当に優しいんだな」
今度の「優しい」は、外見や印象ではなく、
優花の「生き方」そのものを見ての言葉だった。
優花の胸の奥で、何かがゆっくりほどけていく。
「ありがとうございます。……宏樹も、美咲たちの余興、頑張ってくださいね」
宏樹は目を丸くし、そして苦笑した。
「おい、バレてんのかよ。ああ、そろそろ戻って準備しないと……」
そう言いながらも、彼の笑顔は先ほどより少し自信に満ちていた。
再会してからずっと、どこか距離を探っていた彼の表情が、いま、やっと自然に緩んでいる。
「じゃあ……二次会で」
宏樹は短くそう言い、会場後方へと歩いていった。
その背中を追わず、優花はテーブルの上のカードにそっと指先を触れた。
(……読まれた、のに)
そこには、今の優花の想いも、美咲との軌跡も、そのまま温められたまま置かれている。
宏樹の言葉のおかげで、
優花の中に生まれたのは、過去の片思いではなく――
“今の相沢優花”としての、静かな自信だった。
優花は視線を、再入場の光が差し込む扉へ向けた。
その光は、
これから訪れる二次会――
そして、二人の“次のページ”へ繋がっているように思えた。
宏樹がそう言い終えた直後、会場の照明がふっと暗くなり、お色直し再入場のテーマ曲が流れ始めた。
ざわついていた空気が引き締まり、ゲストたちが一斉に扉の方を見る。
「ああ、もう時間か」
宏樹が、ほんの少し名残惜しそうに席を立つ。
「また、後で」
優花も立ち上がり、笑顔で応じた。
その笑みは自然で、どこか柔らかくて、自分でも驚くほど落ち着いていた。
宏樹は頷き、テーブルから離れようとした。
そのとき――
彼の視線が、優花の席の横に置かれたメッセージカードにふと留まった。
それは、新郎新婦へ自由に書き込むために用意された小さなカード。
優花は、その空白に美咲への想いを丁寧に綴っていた。
「……これ、相沢が書いたんだ?」
許可を求める間もなく、自然な動作でカードを手に取り、目を通し始める。
優花は一瞬だけ戸惑った。
他人に“心の内側”を読まれるのは、どこかくすぐったいような気恥ずかしさがある。
だが、宏樹が真剣に文章を追うその表情を見て、言葉を差し挟むことができなかった。
数行のメッセージ――
けれど、そこには美咲との長い友情、感謝、そして心からの祝福が詰まっている。
宏樹は静かに読み進め、読み終えると、そっとカードを元の場所に戻した。
「……相沢らしい。すごく、優しいメッセージだ」
その声は、決して社交辞令ではない。
文章の奥にある優花の気持ちを、そのまま受け取った人の声だった。
「美咲は、相沢にこうやって祝ってもらえて、本当に嬉しいと思うよ」
優花は、不意に胸の奥が熱くなる。
(……読まれたのに、嫌じゃない)
むしろ、自分の“大切にしてきた気持ち”を丁寧に扱われたようで、くすぐったいほど誇らしかった。
宏樹は少し視線を落とし、それからふと顔を上げて真っ直ぐに言った。
「優花は……誰に対しても、本当に優しいんだな」
今度の「優しい」は、外見や印象ではなく、
優花の「生き方」そのものを見ての言葉だった。
優花の胸の奥で、何かがゆっくりほどけていく。
「ありがとうございます。……宏樹も、美咲たちの余興、頑張ってくださいね」
宏樹は目を丸くし、そして苦笑した。
「おい、バレてんのかよ。ああ、そろそろ戻って準備しないと……」
そう言いながらも、彼の笑顔は先ほどより少し自信に満ちていた。
再会してからずっと、どこか距離を探っていた彼の表情が、いま、やっと自然に緩んでいる。
「じゃあ……二次会で」
宏樹は短くそう言い、会場後方へと歩いていった。
その背中を追わず、優花はテーブルの上のカードにそっと指先を触れた。
(……読まれた、のに)
そこには、今の優花の想いも、美咲との軌跡も、そのまま温められたまま置かれている。
宏樹の言葉のおかげで、
優花の中に生まれたのは、過去の片思いではなく――
“今の相沢優花”としての、静かな自信だった。
優花は視線を、再入場の光が差し込む扉へ向けた。
その光は、
これから訪れる二次会――
そして、二人の“次のページ”へ繋がっているように思えた。

