郵便受けから取り出した束の中に、ひときわ存在感を放つ厚手の封筒があった。
西洋風の繊細な装飾と、上質な紙の手触り。差出人は、親友・美咲。
相沢優花はソファに腰を下ろし、優雅なカリグラフィーで記された自分の名前をそっと指でなぞった。
美咲とは高校時代からの付き合いだ。飾らない笑顔と面倒見の良さで、いつも周囲を温かく照らしてくれる存在。
その彼女の幸せを心から祝いたい――そう思いながら、封を丁寧に開いた。
「相沢優花様。この度、私どもは結婚式を挙げる運びとなりました──」
儀礼的な文面の最後に、美咲らしい走り書きが添えられている。
『優花、絶対来てね! 高校のグループのみんなにも声かけるから、楽しみにしてて!』
式の日取りを確認すると、胸の奥でほのかな温かさが広がった。
美咲が幸せになる――それだけで十分なはずだった。
しかし、返信用ハガキを開いた瞬間、その温度は一気に凍りつく。
花婿・花嫁の名前。その下には、すでに出席予定の友人たちの一覧。
そこに、見慣れた四文字が静かに印字されていた。
──沢村 宏樹。
たったそれだけの文字が、優花の時間を一瞬で巻き戻した。
「宏樹……」
高校のクラスメイト。仲良しグループの一員。
そして、三年間ずっと心の奥で密かに想い続けた相手。
卒業して五年。進路も環境も違い、個別に連絡を取ることもなくなった。
時が経てば想いは薄れる。そう信じていた。日々の仕事や出会いが、あの頃の感情を静かに押し込めてくれている――はずだった。
けれど、その名前を目にしただけで。
教室の窓から彼をこっそり見つめていた日の胸の高鳴りが、鮮やかに息を吹き返す。
優花は慌ててハガキを伏せ、深く息を吸った。
「……何よ、私。今さら」
大人になった今、彼に恋人がいても不思議ではない。
自分だって変わった。あの頃の十代の少女ではない。
落ち着きを取り戻すように、ペンを取る。
『出席』に丸をつけ、美咲への祝福の言葉を書き添えた。
これは美咲の結婚式。
自分はただの “友人・相沢優花” として出席するだけ。
──宏樹との再会は偶然に過ぎない。
──過去の感情に振り回される必要なんて、もうない。
そう言い聞かせながらも、ふと視線を落とした指先はわずかに震えていた。
西洋風の繊細な装飾と、上質な紙の手触り。差出人は、親友・美咲。
相沢優花はソファに腰を下ろし、優雅なカリグラフィーで記された自分の名前をそっと指でなぞった。
美咲とは高校時代からの付き合いだ。飾らない笑顔と面倒見の良さで、いつも周囲を温かく照らしてくれる存在。
その彼女の幸せを心から祝いたい――そう思いながら、封を丁寧に開いた。
「相沢優花様。この度、私どもは結婚式を挙げる運びとなりました──」
儀礼的な文面の最後に、美咲らしい走り書きが添えられている。
『優花、絶対来てね! 高校のグループのみんなにも声かけるから、楽しみにしてて!』
式の日取りを確認すると、胸の奥でほのかな温かさが広がった。
美咲が幸せになる――それだけで十分なはずだった。
しかし、返信用ハガキを開いた瞬間、その温度は一気に凍りつく。
花婿・花嫁の名前。その下には、すでに出席予定の友人たちの一覧。
そこに、見慣れた四文字が静かに印字されていた。
──沢村 宏樹。
たったそれだけの文字が、優花の時間を一瞬で巻き戻した。
「宏樹……」
高校のクラスメイト。仲良しグループの一員。
そして、三年間ずっと心の奥で密かに想い続けた相手。
卒業して五年。進路も環境も違い、個別に連絡を取ることもなくなった。
時が経てば想いは薄れる。そう信じていた。日々の仕事や出会いが、あの頃の感情を静かに押し込めてくれている――はずだった。
けれど、その名前を目にしただけで。
教室の窓から彼をこっそり見つめていた日の胸の高鳴りが、鮮やかに息を吹き返す。
優花は慌ててハガキを伏せ、深く息を吸った。
「……何よ、私。今さら」
大人になった今、彼に恋人がいても不思議ではない。
自分だって変わった。あの頃の十代の少女ではない。
落ち着きを取り戻すように、ペンを取る。
『出席』に丸をつけ、美咲への祝福の言葉を書き添えた。
これは美咲の結婚式。
自分はただの “友人・相沢優花” として出席するだけ。
──宏樹との再会は偶然に過ぎない。
──過去の感情に振り回される必要なんて、もうない。
そう言い聞かせながらも、ふと視線を落とした指先はわずかに震えていた。

